戸田建設・滝沢氏 インタビュー
戸田建設の滝沢さん(建築本部 コスト管理センター 建築購買1部 次長)にお話を伺いました。(お役職はインタビュー当時)
開発購買に踏み込んだ背景とは?
横田
本日はCPP導入の社内推進役である戸田建設 建築本部 コスト管理センター 建築購買1部 次長 滝沢さんにお話を伺います。
よろしくお願いいたします。
まずは、貴社の本業である建設業についてお聞かせください。(以下敬称略)
滝沢
建設業が製造業と大きく違うのは、生産して売っているものが必ずしも自分たちで設計していないというところです。すべて自社で設計した製品を売る業種とは調達の考え方が全く違ってくる場合があります。
しかも、1つずつ違う人が異なる設計をしています。建設業界は他社で設計したものを作ることが多いため、最初CPPを知った時の印象では、自社には合わないのではと思っていましたが、中味を見ると建設業にも非常に勉強になると感じました。
横田
建設業は1つずつ作られているものが異なりますから、集中購買といっても性格が違ってくるでしょう。
滝沢
今おかげさまで建築部門の設計施工率は上がっています。お客様から設計をお願いされるケースが以前は3割から4割でしたが、今は5、6割に増えています。これは当社だけでなく、業界全体がそうなのです。ゼネコンも請負仕事とはいえ、半分も自分たちで設計していれば自分の作った商品を売るメーカーとそう変わらなくなります。建物の形は1つずつ違っていても、壁や床だけを見ていくと部品として必要になるものがありますからね。
横田
貴社としては全社の方針として設計施工率を上げていこうと集中して計画を進めてきたのでしょうか。
滝沢
会社としてはそういう狙いを持っています。
設計施工率が上がれば当然、開発購買・フロントローディングといわれる部分に踏み込む度合いが増えてきます。
以前からそういう活動をしていたのは事実ですが、言葉や概念として意識はしていませんでした。小さな組織ほどそういう活動をしやすいとは思いますが、組織を挙げて理論立ててやっていたわけではありません。
横田
御社はコスト管理センターを立ち上げたそうですが、成功事例を持ち寄り、会社全体の有用な知識にしようとしてきたのですか。
滝沢
それについてはこれから継続してやっていかないといけないと思っています。当社でコスト管理センターを立ち上げたのは、業績がよくない時期があったことが関係しています。そこで、そういう組織を立ち上げ、積算と購買が協力して原価について真摯に考えました。積算と購買がお互いに違う基準やベクトルではなく、近づくようにしたわけです。情報共有不足からわれわれが買う値段が原価として入っておらず、お客様に高い見積もりを出していたり、またその逆になったりしていましたから、そこのところの整合性を取っていこうとしたのです。
そのような仕組みができたのは2013年です。業績は2011、12の両年度が悪かったので、2013年にこの組織が立ち上げられたわけです。
CPP講座との出会いは?
滝沢
会社としてはICTの部署も設置されていました。各部門のシステムを統合し、一括して管理していくセクションです。ただ、会社のシステムを作るとき、先に業務を整理しないと、システム開発費が異様に高くなるとのアドバイスを受けていました。
そこで、業務を削るため、システム科学さんのHIT(ヒューマン・リソース・アンド・インテリジェンス・テクノロジー)活動を2014年から2015年にかけて採り入れました。一人ひとりの業務をチャート化して、課題を見つけることで、削減できる時間とこれからどういうことをやらなければならないかが分かってきました。
開発購買を推進するためにはコストテーブルを作ることと、フロントローディングを行っていくことが必要になってきますが、フロントローディングという言葉を知ったのは、ちょうどHIT活動を終える頃でした。
開発購買というのは、製造業の開発設計段階に固有の機能で、建設業にそのまま当て嵌めることは難しいかもしれませんが、何か参考になりそうに思い、日経ものづくりの技術者塾に参加してきました。
建設業も設計施工が増え、フロントローディングをするとなると、開発購買の考え方やスキルが求められてくると思っています。
技術者塾では現在のメーカーにおける購買の課題や、製造業では数年前から開発購買を進めているけれど、なかなか展開できていないということも知りました。技術者塾で話を聞いて1年ほどしたあと、どうしようかと思っていたときにCPPの特別講演会が開催されることを知り、これは行かないといけないと思いました。それが2016年の秋です。
CPP資格について、私たちだけが知っていてもだめで、会社での認知度を広げなければ担当者は動けません。それで、部門として上層部への報告会時に、CPP調達プロフェッショナル認定の社内導入を立案し、説明をしました。面白いと感じてくれたのか、疑問を持っただけなのかは分かりませんが、「こういうことをやりたい」という話はしました。
改革を進めた道のりとは?
横田
2015年頃から滝沢さんの中で段々と問題意識が高まってきたのでしょうか。
滝沢
そうですね。
横田
やはり時間がかかりますか。
滝沢
かかりますね。
まず、2014年のHITからしていったい何が始まるのか分からない状態でスタートしました。このときはまだ、働き方改革という言葉は今ほど使われていませんでした。時間外労働がかなり多かった時代です。そんな中でシステム科学の石橋社長から「残業ゼロにしなさい」「机の中の紙を一旦全部捨てなさい」と過激な指導をされ、われわれも首をひねりながら、セミナーに参加していました。気持ちが変わらないと先へは進めませんよね。
横田
現在の立ち位置をはっきりさせ、あるべき姿をしっかりイメージしなければいけないということですか。
滝沢
そうです、そのようなときに非常に良いタイミングでCPP特別講演会の招待が来たのです。オリンパスさんの調達革新の講演会でしたが、建設工事の発注者側の調達の方の革新への気持ちを理解できれば、われわれの業務にもプラスになるだろうと期待して受講しました。そういう意味では、製造業の方向性は常に参考になる存在なのです。
横田
2014~15年のHIT活動は本社の建築購買部にコンサルタントが入ったということですか。
滝沢
はい。本社の建築購買部のほか、本社人事部、ICT戦略ユニット、東京支店の建築工事部や四国支店総務部が第1回として参加しました。(第5回までかけて全店的に取り組まれた)こういう取り組みはやはり会社として対応しないと、動いていきません。
横田
購買部署に私たちのコンサルタントが入るときは一般的に、「御社の実力はこれぐらいで、問題点がここ」といった診断からスタートします。講演会のケースもそうでした。
まず現状の問題点を見える化して共有することから始めます。
滝沢
会社全体が企業における調達の重要性を認識し、調達がシステマチックに進展しなければいけないという認識を共有できるといいですね。
横田
2012-13年に業界が苦しくなって御社にはコスト管理センターができたわけですよね。
でも、最近の建設業界は景気がよく、割とイケイケで、そういう危機感はないのでしょうか。
滝沢
建設業界は昔のバブルのころ投機的になって失敗しています。
私たちの世代はその経験がありますから、2度と同じ過ちを繰り返さないでしょう。だから、今何かをやろうとしているのです。調達部門は人に投資するか、システムに投資するしかありません。そういう意味で担当者に高度な調達スキルを身に付けてもらいたいのです。
全体最適の中で個々の評価をどうする?
横田
建築業界の調達には特徴的なものがあると思います。設計、積算などの話が出ましたが、さらにメスを入れるとしたら、調達を飛躍させるために必要なテーマは他にありますか。
滝沢
やはり、受注契約をする前の段階から調達グループが関与できるかどうかが大切になってきます。
企画・設計にも情報提供の面で参画し、結果として受注に結び付けることが求められるでしょう。
ただ、コスト削減を限界までフロントローディングした場合、着工後の大幅な原価向上は見込めなくなるため、施工部門のコストについての評価を今までの尺度と変える必要が出てくるかもしれません。
建設業で現場はある意味一つの事業所になるので常に結果が求められています。
事業主としてコスト管理や利益獲得も受け持たないといけません。
横田
「こうすれば全体最適になるからやってみよう」といっても断られることもあるのでしょうか。
滝沢
あり得ます。全体最適を頭で理解していても、自分の努力をどこで評価してもらえるのか心配する気持ちもあるでしょう。
横田
われわれサラリーマンは会社の規模が大きくなればなるほど評価の中で生きていますものね。
滝沢
でも、本当に全体最適をしたとき、どこで個々を評価すればいいのでしょうか。
横田
役員研修を運営していると、いろいろな事業部の役員が新任でやってきます。全体最適を考えるかどうかについて酒の席などで問いかけてみると、自分の部署が赤字なら発言権がないという話をよく聞きました。
トップや副社長クラスに同じ問いをしてみると、副社長か専務ぐらいにならないと難しいという声が多かったのです。
滝沢
会社の業績をすべて全体最適で評価するのだったら、会社全体の業績が上がればみんなが良くなり、突き詰めるとみんなの評価が同じになってしまいます。中にはそれでよいという意見もあり、難しい課題ですよね。
横田
現場自体が1つの事業所というお話が先ほどありましたが、だとすれば現場より上の階層の人たちから「うちはこういう考えで行く。これに協力することが君の評価につながる」と発言してくれると、下が動きやすく、ベクトルも向きやすくなるでしょう。
滝沢
そうですね。
評価軸を一変させるのに必要なこととは?
横田
コスト管理が命題になってくると、原価が占めるポジションは大きいですね。
滝沢
大きいと思います。
パラダイムシフトが生まれ、評価軸が変わらないと、なかなかうまく進めません。我々の例でいうと以前は工種によって積算原価と購買購入額とに乖離がある場合が時折あって購買で交渉して出た差益が購買の評価になり、大きければ大きいほどいいと考えられてきました。
コスト管理センターができてからは、その考えはおかしいということになりました。
原価自体が甘く金額が高くなる場合もあるし、またその逆もある。その部分を大きく改善した精度の高い原価を作らないといけません。コスト管理センターの理想は積算原価と購買購入額の乖離がゼロ、差がないわけです。
そうはいっても理想論ばかりいっていられませんから、乖離率が0%から5%の範囲内に収めることを目標にして、結果として5%を上回ることの無いように原価の設定するようになりました。昔は差益が多く出れば良かったのですが、そういうやり方では逆に大きな差損が出ることもあって、考えが大きく変わりました。
横田
プロフェッショナルの世界ですね。
滝沢
痛い目にあって変わったわけです。
横田
失敗から学ぶことは多いですよね。
社内での勉強法と今後の目標とは?
横田
貴社にはさっそく7月に3名の方がCPPを受験いただき、見事全員が合格されました。
滝沢
皆、努力してくれました。
私がメールマガジンを発行し、受験のことを忘れないよう注意喚起もしました。また、対策セミナーを受けた人には部内会議で重要な点を発表してもらいました。
横田
勉強会は催しましたか。
滝沢
特にそういうことはやっていません。対策セミナーでどの辺りの説明があったか、試験の内容はどのようなものであったかを部内会議で30分ほど説明してもらう程度です。
横田
風通しよく情報を共有されていたわけですね。合格した方に社内でインセンティブはありますか。
滝沢
それも特にはありません。ただ、会社トップに説明していることを社員に伝えていますので、誰もが会社の方針であると理解しています。
もちろん、意義についても十分情報共有しましたから、建設業としてこれから購買の方向性については十分に問題意識を持っていると考えています。こんなのおかしいと思っていたら、誰も受けに行きませんよ。
横田
今後5年、10年の購買のあり方に関するビジョンづくりはやっていますか。
若手社員を中心にコンサルタントも入り、他社の事例も検討して勉強会やビジョン策定をする企業もときどき見かけます。御社の社風からすると、ぴったりくるように感じました。
そういう事業ビジョンは上からトップダウンで降ろしてくるより、若手が自分たちで作り、これからの会社をどうにかする方が効果的なように思います。
滝沢
それができるといいですよね。今度合格した3人も他の社員と違う意識を得たはずです。今はみんなが本社にいますが、やがて支店へ出ることもあるでしょう。そうするとだんだんと会社全体が変わるかもしれません。
実際はスピード感を持って変わるのが難しいところもあります。変化はゆっくり訪れるという言葉もありますので。でも、少しずつやっていかないと、全然前へ進みません。
横田
CPPのB級に受かった人にはどんなことを期待していますか。
滝沢
A級を狙うよう勧めています。今後は本社から支店への展開も検討しています。まずは本社内に次受ける人がまだ3、4人いますから、その後支店への展開をしていきたい。ぜひ次に続くように受講し、全体のスキルアップに繋げて欲しいと考えています。
横田
本日はありがとうございました。