戸田建設 インタビュー
戸田建設の佐藤さん(購買1部 部長)、滝沢さん(購買1部 次長)、猪飼さん(購買1部 課長)、牛山さん(購買1部 主任)、土屋さん(購買1部 主任)にお話を伺いました。(お役職はインタビュー当時)
現在の職務と職場の状況とは?
綿貫
本日は戸田建設購買1部部長の佐藤さん、CPP社内推進役で次長の滝沢さん、今回7月に受験し合格された購買1部課長の猪飼さん、主任の牛山さん、土屋さんの5名様にお揃いいただきました。
みなさんどうぞよろしくお願いします。
さっそくですが、みなさまの現在の仕事、調達業務での役割について教えてください。
(以下敬称略)
滝沢
本社購買は18人の組織です。1部と2部があり、1部は16名、2部は2名の組織で、主に調達業務は1部が担当しています。
1部には6つの課があり、そのうち直接調達に関係しているのは5つの課で担当者は11人です。
本日出席しているメンバーは全員が1部で、それぞれが調達業務で扱っている工事種目には特徴がありますので、それぞれに自己紹介とともに説明してもらいたいと思います。
綿貫
では、猪飼さんからお願いします。
猪飼
私は4課に所属し、ここにいる牛山と2人で担当しています。4課の担当は首都圏の機械設備工事の調達や協力会社の選定作業を行っています。
購買実績のデータ分析、取引交渉及び契約、労務状況の確認、購買ツールの管理等、業務は多岐に渡っています。エリアは、東京支店、千葉支店、関東支店、横浜支店のエリアを受け持っています。
土屋
私は1課の所属で、課員は2人ですが、その上に課長が1人おります。担当は鉄骨と免震、制振装置関係になります。
課長が鉄骨の本体を担当し、それ以外の附帯鉄骨や免震、制振装置関係を私が受け持っています。エリアは先ほど説明があった4課と基本的には同じで、東京・千葉・関東・横浜の関東の4支店の鉄骨工事関連を集中購買しています。また免震・制振装置は全国を担当しています。
調達業務への従事期間とは?
綿貫
みなさんが調達業務に当たる期間は長いのか、それとも異動が頻繁に行われるものなのでしょうか。
猪飼
私はこれまでずっと購買部に所属してきたわけではありませんが、携わっていた設備工事に関わる工事管理の仕事の中にも購買に通じる業務があり、そういう意味ではずいぶん長く購買業務に携わってきたと言えます。
牛山
私も本社の購買部所属期間としては2年ちょっとですが、猪飼と同じようにその前の10年くらいは設備の工事管理に携わっていました。
土屋
私は購買部門に10年ちょっといますから、この中では多分、経験が最も長いと思います。
綿貫
会社としては早く異動することもあるのでしょうか。それとも比較的長く1つの部署に留まるのでしょうか。
佐藤
担当している工事種目や個人によって違いがあります。1課だと扱っている工種が鉄骨関連で、2課だとPC(プレキャストコンクリート)などです。
そのような部署は、担当している工事全般の情報の蓄積や協力会社との信頼関係をある程度深めていかなければなりませんから、比較的長期の在籍となり、頻繁に異動させるようなことはありません。
佐藤
4四課と5課は機械設備や電気設備を扱っていますが、設備には工事管理、積算、購買、設計など様々な仕事があり、それらの部署をローテーションしながら3年か5年で異動する社員もいますし、設備購買全体を核となって纏めていくために長く在籍する者もいます。
綿貫
実際の調達先は国内だけでなく、海外も含まれるのですか。
土屋
海外も一部ありますが、直接交渉する企業は国内の方が多いですね。
海外の企業と契約することもあるのですが、ほとんどの場合は当社と契約した国内企業が海外から調達する間接的な海外取引が多いです。
牛山
自分の部署では、海外もなくはありませんが、国内が99%近くを占めています。
ほとんどが国内の設備会社との取引になります。
購買業務が抱える課題とは?
綿貫
現在の業務の中でもいろいろと課題があると思います。今回、CPPを受けていただきましたが、それ以前から感じていた課題があれば教えてください。
土屋
CPPのテキストにフロントローディングや開発購買というキーワードが出てきましたが、われわれ建設会社も同じようなことに取り組んでいます。追随型から先行型へ購買のスタイルを変えていくことが課題だと考えているからです。
そうなりますと、設計業務など川上の早い段階から、いろんな部署や協力会社が関係してきます。今までやってきたリレー方式などと違い、すべての作業が並行して進むようになり、進捗具合や方向性の確認・調整をせず、各部署が勝手に進めてしますと、どこかで問題が起きるような気がします。そういう意味で、今回のCPPのテキストではそのあたりを系統立てて説明されていましたから、大変参考になりました。
綿貫
ありがとうございます。
滝沢さんもフロントローディングと開発購買をきっかけに、CPP社内導入の検討を始めたと聞いています。
滝沢
製造業は建設業より進んでいるところがあり、お手本とすべきことは多いですね。これは生産システムだけでなく、調達システムにも当てはまります。
牛山
先ほど土屋から話がありましたが、前倒しのフロントローディングが会社の取り組みとして考えられています。
特に設備関係のコスト算出や価格を発注者に提示する際に、今までは積算段階での実績などから判断することが多かったのですが、最近は早い段階から購買が参画するようになり、最終金額に近いコストの算出をするように意識しています。
CPPを社内展開するきっかけとは?
綿貫
貴社のお取組みのきっかけは、ちょうど1年前、私ども日本能率協会で主催した企業事例の特別講演会と伺っています。
発表企業様は私どものCPP教材や資格制度を利用していただいており、それらの取り組み事例を紹介させていただいた講演会でしたね。
その後、滝沢さんにCPPガイドの内容をご確認いただき、貴社で取り組みが始まったわけですね。実際に滝沢さんは部長である佐藤さんにCPP導入について、相談されたのでしょうか。
滝沢
はい、私が佐藤に相談しました。
佐藤
私どもは建設業ですが、建築に関する資格はいろいろとあります。
1級建築士や施工管理士の資格取得にはみんなが積極的に取り組んでいるのですが、購買部門にはそのような資格が何もありませんでした。購買という部署を何年も経験しているのに、取得できる資格がなかったのです。せっかく購買部門にいるのだから、CPPのような購買・調達向けの資格があるのなら、各自が身につけてレベルアップしてくれればいいと思いました。
ただ今回3人が合格しましたが、学んだ内容がそのまま建設業に当てはまるかというと、非常に難しいと感じます。メーカーや製造業なら、ある程度その通りにやっていけばいいでしょう。建設業は一品生産ですから、そのまま使えるかどうかは正直疑問です。
しかし、これから建設業がどのような方向へ向かうか分かりませんが、考え方や知識としては役立ちそうです。会社が少しでも利益を出していくためには、そういったシステム的なことも理解しておくべきでしょう。製造業とそっくり同じやり方にはならないと思いながらも、新しい気づきがあれば良いと考えて初回は3人に受験させました。
受験することを決めた理由とは?
綿貫
調達の資格は初めて触れる内容だったと思いますが、話を聞いてどんな印象を持ちましたか。
猪飼
正直いうと、当初はかなりの不安がありましたが、受験することを決め、事前の対策セミナーも受講させていただき必死に習得しようとしました。
われわれは一品受注で建て売り販売もない会社ですから、テキストに書かれている内容がすべて当てはまるわけではありませんが、CPPの考え方をわれわれの調達業務に取り入れられないかという意識で勉強しました。
牛山
私も正直に申しまして、学習内容については、英語の名称も多く、とっつきにくいことがありました。
事前に猪飼が出席した事前対策セミナーの概略を部内会議で教えてもらいました。それでかなり受け入れやすくなったように記憶しています。
テキストは800ページくらいあってかなりびっくりしたのですが、ある程度要点を把握でき、試験問題の対象になりそうな部分も想像できました。
綿貫
土屋さんはCPP資格の話があってから、実際に受けてみようと判断するきっかけになることはありましたか。
土屋
1つは建築にかかわる資格がたくさんある中、購買に関する資格の存在を知り、私は購買歴が長かったのでチャレンジしたいと思いました。購買業務に対して、比較的漠然とした感じを持っていましたから、改めて購買とは何か、他業種の購買はどのような事をしていてどのような課題を持っているのかという事に興味を持ったことも一因です。
滝沢
トップバッターで受けてくれたよね。
綿貫
この資格は結構、難易度が高く、3、4割の合格率です。
その中で3人の方が初めて受験し、全員が合格することは滅多にありません。
プレーシャーも多い中、さすがだと思いました。
猪飼
私は受からないと何のために対策セミナーに行ったのか問われそうで、相当なプレッシャーがありました。それで必死に勉強するしかありませんでした。
試験勉強が成功した秘訣とは?
綿貫
今回、試験勉強をされたと思いますが、みなさんが合格した秘訣みたいなものはあったのでしょうか。
猪飼さんは講習を受けていただき、滝沢さんからみなさんにメルマガ的なものを投げかけたというお話がありますね。
滝沢
試験のことを忘れるといけないので、週に1回ぐらい「(ちゃんと)勉強している?」と問いかけるメールを送りました。それと今回の受験者だけを対象としたメルマガも出していました。
でも、あれが効果を上げて受かったわけではないとは思いますので、何が秘訣だったのかは私も知りたいですね。
猪飼
メルマガですかね(笑)
綿貫
そのメルマガにはどんなことが書かれていましたか。
猪飼
テキストの中からポイントと思われるところをチェックしたものが送られてきました。
それにどこからか拾ってきた情報が入っていることもありました。過去に出題された部分も教えてもらいました。
牛山
私は(CPP公式HPにアップされている)用語集をダウンロードし、まずはワードを記憶することから始めました。
私は英語系ワードが苦手なので、単語帳みたいなものを作り、通勤の間にめくっていた記憶があります。
土屋
テキストには日常業務で行っている購買や調達のことが書かれているので、業務的な内容は理解し易かったのですが、用語を覚えるのに苦労しました。通勤の電車の中でテキストを写したり、直前の講習会を受けた猪飼から重要な部分を教えてもらったりして勉強しました。
綿貫
3人そろって勉強するようなことは、特になかったのでしょうか。会社によってはみんなが集まり、勉強会を開くところがあります。用語がどうしてもそれぞれの会社で普段使っている言葉と違うので、「うちではこう呼んでいる」と社内訳をつけながら覚えるところもあるそうです。
みなさんの業務と違っているところや対象外の部分もあったかもしれませんが、その辺りはどうでしたか。
土屋
対象外の部分はあまりなかったのではないでしょうか。
建設業界は自動車産業などの製造業とは違うところがありますが、例えばテキストの中の工場での作業効率化のための設計は、われわれに置き換えると現場の施工性に配慮した設計ということになります。
そのように多少我々の業界と異なるところは建設業に置き換えながら勉強していました。あと、あまり建設業に馴染みのない物流システムなどは、こういうものもあるのかという感じで拝読させて頂きました。業界は違っても広い意味では関係あることなのかもしれませんね。
取得した知識を仕事にどう生かす?
綿貫
みなさんとも仕事で非常にお忙しい中、時間を作っていただいたと思います。今回、資格を取得してどの辺が仕事に役立ちそうと考えているのでしょうか。
猪飼
話が多少重複しますが、私は調達の考え方や仕組みを基本から学び、それが自分の中に入ってきたと感じています。この部分を生かしていきたいですね。
牛山
私も先行型の考え方をはじめ、VEの考え方や査定購買を取り入れることができました。
さらに、A社、B社、C社を比べ、それぞれの得意分野を見ることや、市況の動向を常に把握することなどを実務で使っています。大変役に立つと実感しているところです。
土屋
私も基本的な部分は同じです。テキストには、フロントローディングという手法の中で必要なツールとして、コストテーブルやVEが出てきました。これらのように当社でも既に構築できていることもあれば、いまだに個人のノウハウやコネクションに頼っている部分も残っています。
フロントローディング、開発購買を進めていく上で更にツールや仕組みを整備する必要があると感じています。
綿貫
佐藤さんと滝沢さんからみなさんに対する期待がありましたら、ぜひお願いします。
滝沢
今まで聞いたことのない良い話が出てきたので、感心して聞いていました(笑)
ガイドの最初に出てくる調達戦略という点でいえば、ゼネコンの購買担当者は今まで結構、一匹狼的なところが多かったのです。組織調達になっていません。だから、戦略の言葉がついてないのです。だけど、ガイドを開くといろいろな言葉が出てきます。例えば、集約化・内外製見直し、、、などです。このような部分は勉強になるでしょう。売っているものは製造業と違いますが、調達の方向性や戦略は同じです。時代の流れがいっしょなら、同じことではないでしょうか。
佐藤
CPP試験はどちらかというと、製造業を中心に考えて作られたものに見えます。
製造業の場合、誰もが年間にどれだけ売れるのかのイメージをつかめていると思います。
その中でどれだけシェアを取り合うか、そのためにそれぞれのグループでどうやって効率を上げていくのか、どのようにしてコストダウンするのかを考えていくことになります。
ところが、今回勉強したことを建設業に役立てようとしても、そもそも建設業は一品ずつ内容も違えば仕事の量にもばらつきがあります。次にどんな仕事が出てくるのかも分かりません。決まったものがないわけです。
建設業は製造業と違って、いつも同じメンバーで仕事をする訳ではありません。現場毎に異なる協力会社の組み合せで仕事をすることがほとんどです。常に同じグループの中で効率を上げていく仕事ではありませんから、そのときに最もよい組み合わせはどうなのか、コスト面、技術面から見極めなければなりません。そこが難しいところでもあるのです。
その辺りになると、製造業と全く異質の状況になりますから、建設業にどう当てはめていくかは、みんなでこれから考えていく必要があります。せっかく資格を取ったわけですから、学んだことをこれから少しずつでも取り入れて業務に活かせればいいと思います。
これから受験する人へアドバイスは?
綿貫
滝沢さんからCPP資格を社内でさらに広げたいというお話を伺っています。
滝沢
今年の冬に他のメンバーにも数人に受けてもらい、こんな感じだったということを本社から支店へ伝えたいと考えています。
佐藤
全社で展開する前に本社でやってみようというわけです。先ほど申し上げたように全く異質な部分もありますから、効果を確認しないと本当に使えるものなのかどうかが分かりません。本社でやってみて、これは使えるとなったら、各支店で全社的な展開をしようと計画しています。でも、ちょっと難しい部分があれば、それはそれでやり方を考えないといけないでしょう。このまますぐに無条件で全社展開というのではなく、自社や業界との整合性などを見極めていきたいと考えています。
綿貫
他の会社も同じように少しずつ広げ、様子を見ながら進めていることが多いようです。
今回のインタビューを公開した際、社内の方で今後受験しようと考えている人が記事を読むと思います。そのような方たちへアドバイスがあればお願いします。
牛山
システマチックに購買を理解するのはいいことです。新しい用語を学ぶのもいいし、理解を深めるのにも役立ちます。だから、頑張ってほしいですね。
綿貫
同じ社内でも言葉の使い方が異なるということをよく聞きます。1つのテキストでみなさんが勉強すれば、自然と言葉の定義ができ、用語統一になります。仕事のミスが減り、スピードアップも図れるそうです。
土屋
学んだことを建設業界に置き換え、噛み砕いて独自の用語やツールにし、そこから当社独自の仕組みを作り出すこともできると思います。そういう可能性を漠然と感じています。ぜひ頑張ってください。
綿貫
CPPがみなさんの業務の一助になれば幸いです。本日はありがとうございました。