東京電力・谷口氏 松本氏 五十嵐氏 インタビュー
東京電力ホールディングス株式会社
谷口 正洋さん(経営企画ユニット グループ事業管理室 調達管理グループ 能力開発担当課長)
松本 理奈さん(廃炉資材調達センター 廃炉調達企画グループ 副主任)
東京電力パワーグリッド株式会社
五十嵐 正和さん(資材調達センター 調達改革第二グループ 課長)
にお話を伺いました。(以下敬称略、お役職はインタビュー当時)
東電グループの調達活動とは?
森宮
今回は東京電力グループから3人のみなさんにお集まりいただき、ありがとうございます。
谷口さんや当時の上司の方からCPPを組織的に導入したいという話を聞いてから、かれこれ2年ぐらいになると思います。それから約250名あまりのかたがCPP資格を受験されたと聞きます。
まずは東京電力ホールディングスのCPP導入にあたって事務局を担当された谷口さんからお話をうかがいます。
グループ各社の窓口を務めていただいておりますが、東京電力グループの購買調達活動の概要について教えていただけますか。
谷口
東京電力グループの調達活動は、主に火力や原子力などの発電設備、送配電、変電の設備、お客さまに電気を届ける設備などの購入、メンテナンスの工事契約などです。
設計の委託などの調達もしています。
内容は、プラントから変圧器、電柱まで幅が広く、建物の建築工事、設備の基礎の土木工事なども調達します。
グループとしてはホールディングスの傘下として、火力発電をするフュエル&パワー、送電や変電、配電を受け持つパワーグリッド、市販品を調達するビジネスソリューション、福島第一原発の廃炉を推進するカンパニーなどがあり、各カンパニーの本社に調達センターが存在しています。
今回、組織的にCPPを導入しようとしているのは、ホールディングスの調達管理グループと、それぞれの本社にある調達センターで、職員数はすべて合わせて250人ぐらいです。
森宮
ありがとうございます。
なぜCPP資格を採用したのか、時期的なことや背景にあったことを教えていただけますか。
谷口
調達業務の高度化を進める中で、これまでは社内で業務知識の研修を実施してきました。
しかし、だんだんと業務が難しくなり、高度化していきます。
このため、社外の方と意思の疎通ができる一般的で普遍的な知識が必要になってきたのです。
一方で、人事異動で技術部門から資材部門へ来る職員が増えてきました。
その結果、グループ内で技術者を早期に戦力化するための教育も課題として浮上してきました。
CPPには標準的な調達の知識がほぼすべて網羅されていますから、非常に便利であることが分かりました。
また、社内研修の内容は毎年度見直ししているのですが、実は、これが結構大変な作業なのです。
CPPだと、日本能率協会で内容がしっかりとした改訂版を出していただけます。
事務局側の作業が非常に楽になることもCPPを採用した理由です。
ほかの理由もあります。社内研修は係長職や課長職が講師を務めてきましたが、実際に実務をやっている係長、課長以上の職員がなかなか受講しないのが悩みでした。
受講したがらないというのが正確な状況で、これを解決するためにもCPPを採用しようと考えたのです。
社外の検定を目指せば、勉強する目的がはっきりすると思いました。
森宮
業務の高度化とは具体的にどういうことですか。
谷口
手配購買とか競争購買と、だんだんに調達業務は高度化していきます。弊社は、競争購買の段階でした。そして、競争率もかなり高くなってきておりました。
そこで、さらに一歩進めてコストダウンしようとするのなら、CPPの教科書に触れてあるようにカテゴリーごとに調達戦略を立てる必要が出てきます。
自分たちなりに調達戦略を進めてはいましたが、やはり何か教科書的なものがあれば、各分野で全面展開できると考えました。
検討した結果、高度化に対応できそうだと思えたのがCPPだったのです。
CPP資格受験へのプロセスとは?
森宮
御社に限らず、CPP受験を検討する企業はみなさん、同じような問題意識を持っていると思いました。
ただ、御社は規模が非常に大きい受験状況となっています。
簡単に「やってみようか」、「じゃあ、やろう」で受験に至ったのではないと推察します。
どのようなプロセスを経て受験となったのでしょうか。
谷口
調達業務を改革し、高度化するための知識習得という目的がありましたから、トップから変わる必要があると感じ、メッセージを発信していただくことにしました。
それで部長を説得することにしたわけです。
自分たち数人がまず受験したところ、非常に役立ちそうに思えました。
受けたみんなで相談し、今回来ている五十嵐、松本に説得をお願いしました。
どんなことになっていったかは、五十嵐と松本から聞けると思います。
森宮
合格者である五十嵐さんと松本さんにも同席いただいています。
まずは五十嵐さんから現在の担当業務を自己紹介も兼ねてお願いします。
五十嵐
私はパワーグリッドに所属しており、調達改革第二グループの一員です。
私のチームの業務は取引先登録など取引先の管理です。
資材部門での調達は、基本的に一見さんとは取引していません。
これはリスクマネジメントの一環です。
私どもの方で弊社と取引を希望される会社の財務面や製品の品質面などを事前に確認させていただき、審査したうえで、合格すれば初めて取引先として登録しているのです。
弊社が何かを調達する際、調達先として選ばれる資格が登録によって得られることになります。
財務面などに不安を抱える会社と取引すると、将来的に契約上のトラブルが発生する可能性があります。
そうしたリスクを回避するために登録した取引先以外との取引はしないようにしています。
その取引先登録業務の審査や承認をするのが私の役割です。
あとは谷口と一緒に部門内研修の講師役なども務めさせていただいています。
最近よくやっていたのは、異動の時期の転入者研修です。以前と違って異動の時期が不定期になり、臨時で対応することが多くなりました。
本社の資材部門に初めてきた人に対し、資材部門の概要や主立った取り組みなどを説明するほか、契約手続きの流れや公正取引の注意点、調達システム関係の注意点などを解説しています。
ほかにはCPP-B級取得の勉強会の講師になり、松本とともにCPPの浸透活動を手伝っているところです。
森宮
多岐にわたる業務を担当されていますね。
面白いと思ったのは、調達購買開始前の登録審査です。
御社の特徴的な業務の1つだと感じました。
購買先を精査する基準やそれを判断する知識などが必要になってきますね。
五十嵐
そうですね、私が所属するグループでは主に財務面を見ています。
資本欠損がないか、債務超過に陥っていないかなどを確認しているのです。
技術面は技術所管部門の方に審査をお願いしています。
必要な書類を提出してもらい、合格となれば取引先として登録します。
これで初めて調達先候補の1社になります。
森宮
続きまして松本さんにお願いします。
松本さんは廃炉カンパニーということですから、業務内容がちょっと異なってくるかもしれません。
松本
社内カンパニー制が敷かれる中、私が所属する廃炉カンパニーは福島第一原子力発電所の廃炉に向け、ロードマップに沿って作業を進めています。
私は廃炉に必要な資材の調達を担当する廃炉資材調達センターにいます。
実際に物を買うことや契約業務はやっていません。
センター全体の業務計画を作り、調達金額の大きいものを中心に年間のコストダウン目標額を決めるのが仕事です。
目標を立てるカテゴリーの選定や全体の調達方針の検討も私の部署の担当です。
企画部門に所属していますから、調達機能を組織としてどう強化するかについて常に考えています。
JMAC((株)日本能率協会コンサルティング)さんの力を借りて廃炉資材調達センターの組織力の点数を教えてもらっていますが、うちのセンターに足りないものを強化する取り組みも進めています。
廃炉は最近出てきた活動ですが、他のカンパニーと比較して競争力が足りない部分をいかにして強化するかを考え、方針を立てて進めることになります。
それと、研修の講師で五十嵐、谷口のお手伝いをさせていただいています。
最初にCPPを知って感じたこととは?
森宮
廃炉は国内で他に事例がないことです。
しかも、企画という中枢にいらっしゃるわけですから、いろいろな難しさを抱えていると思います。
そんな中、最初にCPPについて話を聞いたとき、松本さんはどのように受け止めましたか。
松本
最も印象に残ったのは、幅広くいろいろな調達に関係する知識を学べることです。
これはいいと思いました。
私自身は、資材での経験がそこまで長くはなく、契約実務も2年半ほどしかやっていませんでしたから、自分が知らない分野の知識を得られて良かったです。
具体的には国際調達や資材流通、生産方式、工程管理などで、テキスト4冊にわたって詳しく紹介されていました。
森宮
それではこれは役に立つと前向きに受け止められたのでしょうか。
松本
そう思っていました。
森宮
この点について五十嵐さんはいかがですか。
CPPでいうと谷口さんに近い立場で導入をサポートされたのかもしれませんが、ご自身も受験された初期段階での印象はどうだったのでしょう。
五十嵐
きっかけは当時の上司と谷口から、社内認定資格を取得しているということで声をかけられ、いっしょに受験することになりました。
松本も同じでした。
そのとき、私は申し訳ないのですが、CPPについて知りませんでした。
実際のところ「何ですか、それ」という感じでした(笑)。
現実にテキストが届き、勉強を始めてやっと腹落ちしたのです。
私が今まで点の形で持っていた知識が体系的につながっていました。
それに加え、社内のマニュアルや手続きに精通していたとしても、社外の調達がどんなものか興味がありました。
調達のスキルを測る物差しを持っていませんでしたから、テキストを読むことでいろいろな知識を得ると同時に、世間一般の調達の常識をある程度おさえられたように感じ、自信を持てました。
CPP資格受験勉強の方法とは?
森宮
お2人は初期メンバーみたいな感じなのでしょうか。
谷口
このメンバーに上司を加え、受かってから祝勝会みたいな集まりを開きました(笑)。
私なんか20年ぐらいこの仕事をしていますし、彼も10年ほど、彼女は数年になります。
それでも、スキルを測るバロメーターを持っていませんでしたからね。
個人的な感想ですが、受かってみると、標準的なバイヤーとして認められた感じがしました。
だから、祝勝会がやたらに盛り上がってしまったのです。
勉強しなければならないボリュームが多いので、私は会社の帰りにファミレスに立ち寄り、1時間ほど勉強していました。
あと、大事だと思える部分は3、4人で集まり勉強したこともあります。
このファミレスに毎日、立ち寄っていたら、店員さんに名前を覚えられてしまいました。
2カ月ぐらいは夜にみんなで集まり、答え合わせというか、この辺が出そうだと情報交換しながら、いっしょに勉強もしました。
結果として団結が深まった一面もあったから、祝勝会が盛り上がったのでしょう。
会社の研修だと終わったあとはパワーポイントで発表するぐらいで、特別な感情がわくことはありませんでしたが、今回は認められたという感じが強かったです。
合格、不合格がはっきり出ますから、余計にそう感じたのかもしれません。
森宮
その出発点があったのは、後々に大きな影響を与えたように思いますね。
五十嵐
私たちが平成28年7月に受験したのが初めてです。
合計8人が受験して合格したのが、上司と、谷口、私と松本の4人です。
それでこれをどうやって広めようかという話になり、部長の説得に動いて現在に至るわけです。
私どもが受験したときは受験に関するノウハウがありませんでした。
セミナーの問題を入手したのですが、それがどの程度出題されるのかどうか、分かりません。
そこで、有志の勉強会を開き、セミナー問題の答えを分担してテキストから拾い出し、模範回答集をみんなで作りました。
1人でやるとあの分量はなかなか大変です。
小分けにしてみんなの努力を集め、模範回答集がようやくできました。
それを重点的に読み込み、試験に臨んだのです。
実際どんな形式の問題が出るのかもわかりませんでしたが、そこで登場したのが突撃隊長の谷口です。
前日に「あす、玉砕覚悟で行ってくるわ」といって試験に臨み、見事に一発で合格しました。
それですぐに「合格しまちた。やりまちた。」というメールが飛んできたのを記憶しています(笑)。
谷口
もうテンションが上がり、普通のメールではなかったです。
ビジネスメールではなく、ネット言葉やスラングを乱発していました。
五十嵐
その報告を受け、セミナー問題が大事だということが分かり、その日以降、そこを中心に勉強しました。
私は報告を受けてから、試験まで2週間弱ありましたが、その内容に特化した勉強ノートを作り、直前の3日間はひたすら繰り返して読んでいました。
私どもはセミナー問題をひと通り解くことを「回転」と呼び、やれ3回転半勉強した、4回転勉強したとかいっていました。
まるでフィギュアスケートみたいでしょ(笑)。
何度も繰り返して読むことで知識として定着させ、本番に臨もうとしていたのです。
谷口のあとは上司が受けて合格し、その次が私、そしてそのあとで松本が合格しました。
結構いい流れで進んでいった感じです。
森宮
すごいですね、松本さんは何回転しましたか。
松本
私はノートに書く派ではなく、模範解答集を見て言葉に出して記憶しました。
出題は穴埋めで出ることが多いと思いますが、穴埋めで覚えても本当に理解したことにならないと思い、ラインマークを引いた答えの場所とその周辺を読み込み、自分の中で咀嚼し、自分の言葉で説明できるようにしました。
テキストの読み込みの中で自分になじみがあったり、知っていたりする部分はすごく分かるのですが、あまりかかわりがない分野は理解が深まりませんでした。
具体的には生産管理やIEの分野などです。
そこを理解するのに、気軽に確認したり教えてもらえたりする一緒に学ぶ仲間がいて良かったです。
試験勉強というよりは実務の勉強という感じで進めることができたとも感じています。
受かるまではやはり大変でしたが、自分の身につき、今も実務で活用しています。
資格取得を進めるための工夫とは?
森宮
それぞれの得意なやり方で工夫して知識を身につけていったのだと思いますが、今回谷口さんから話を聞いた際、私ども事務局でも驚きがあったさまざまな工夫ぶりです。
これらはどういう過程で生まれ、現在に至ったのでしょうか。
まずはご紹介いただけますか。
谷口
「スキルアップしていくときに目印があるといい」という話が出て、業務時に常に携帯する社員証のストラップの色をスキルによって変えることにしました。
これは若手社員から出たアイデアです。
色分けは3段階くらいがいいということで、いつもは青ですが、CPPに合格したら緑にして、さらにレベルアップすると黒になります。
黒は講師ができるレベルです。
色分けすることにより、やる気を引き出す狙いがあります。
初期のころの話ですが、実際にマネージャー、センター長が受験したあと、「受かったのに緑のストラップがまだ来ない」といって催促していたことがありました。
役員から、君は青ストラップなのか?と尋ねられたそうです。
これで色分けすることの効果が再確認できました。
覚えやすくするために語呂合わせも活用しました。ペンネームは、ゴロゴ13です。
調達部門には5大権限というのがあり、サプライヤーを決定する権限、単価を決める権限、規律部門が何をやっているかを知る権限、取引を始める権限、停止する権限です。
これは非常に大事な部分ですが、私のように50歳を過ぎて受験した人間にはなかなか覚えるのが難しいものです。
それで語呂合わせを作ろうと考え、5大権限を「サタンが知る開始と停止」として覚えるようにしました。
「サ」はサプライヤー、「タン」は単価です。
覚えやすくなったと思いますが、これを作り過ぎると、そもそも「サ」が何だったのか、「タン」が何を意味するのか、分からなくなってしまいます。
だから、やり過ぎは良くないかもしれませんが、ポイントを覚えるのには非常に便利です。
それから、調達改革を進めていくと、企画機能、組織、マネジメント、プロセス、情報システム、スキルのどれかのせいで、うまくいかないことが出てきます。
キソマプジス、として、暗記しています。
普段の業務中でも、「キソマプジスのどこに欠陥があるから、うまくいかないのか?」と注意を払い、せっかく学んだ知識を忘れないようにしています。
私自身にとっては便利なやり方です。
他の工夫としては、CPPは理論なので、弊社の実務との連結のためにCPPの勉強会とは別にテキストを3冊つくって、2回の補講をしています。
具体的に、これとこれが、できることが、弊社としての当面のゴールであると、知らせています。
そのほうが、CPPを勉強したあとの知識の活用方法が具体的にわかると思いました。
五十嵐
先ほどの部長を説得しようという話につながるのですが、谷口も申し上げました通り、上層部が率先垂範でやるのが最もいいということで、まずは部長や特別管理職級に受験してもらうことにしました。
でも、いきなりテキストを配り、「はい、よろしく」というわけにはいきません。
私どもが持つ経験を少しでも合格に生かせるよう勉強会を開くことにしたのです。
勉強会はセミナー問題を分割して、学ぶことにし、全4回開催することにしました。
私が初回と3回目を担当したのですが、率先垂範ですから、参加者は自分より偉い人ばかりです(笑)。
だから、講師を務めるのはちょっとおこがましかったのですが、社内の研修で講師役やファシリテーターを務めた経験がありましたので、そこは腹をくくってやることにしました。
たとえ立場が偉くても同じことを学ぶ戦友みたいな存在と考え、講師役を務めました。
勉強会の各回の最後に一体感を高めようと、「絶対に合格するぞ!おー!」とみんなで声を出すことにしました。
勉強は孤立した状態ではなかなか進みません。
みんなが同じ気持ちになって頑張れば、効果が上がると考えたのです。
それに勉強会の最後にこれをやると締まりますからね。
森宮
「声が小さい」とかいうのですか。
五十嵐
それはさすがに立場が上の人にはいえませんよ(笑)。
ただ、当時の女性の部長もいっしょに「おー!」と声を上げてくれました。
うれしかったです。
その方がやっているのに、他の人がやらないわけにはいきませんから。
そういう良い雰囲気に勉強会を持っていくことができたのです。
最初はドキドキ、心臓バクバクでスタートしましたが、腹をくくってスタートしたら、うまくいくことができました。
講師をしていると、受講者の態度の変化がよく分かります。
最初は「おー!」に参加していなかったのに、回を重ねれば参加するようになった人がいました。
表情や反応も変化していったのです。
勉強会をやって本当に良かったと思いました。
CPP勉強会の雰囲気とは?
森宮
松本さんもその中にいらっしゃったのでしょうか。
松本
そうです。
講師を五十嵐と交互にやりました。
五十嵐
私が初回と3回目、松本が2回目とラストを受け持ちました。
初回は勉強の内容だけでなく、受験当日の行動や勉強の仕方も説明しました。
例えば、試験会場入りは30分前にとか、勉強ノートの作り方などです。
ほかには試験時間は90分ですが、最初にアンケートがあるので、アンケートをサクッと終わらせ、極力タイムロスのないようにすることなども付け加えています。
松本もいっしょに「おー!」をやってくれました。
私のときは受講者の顔がこわばっていましたが、松本がやるとみんな喜んでいました(笑)。
松本が講師のときは席が前から埋まっていましたが、私のときは全く逆で、後ろから埋まりました(笑)。
森宮
実際に教えてみてどうでしたか。
松本さんから見てみなさんのやる気度はどういうふうに映りましたか。
松本
人によって結構、ばらつきがありましたね。
最初から前もって予習して準備万端の人もいれば、勉強会で初めてテキストを開いたという人もいました。
でも、やはり皆で一緒に合格したいという気持ちから、最初はそこまで前向きになれなかった人も徐々にモチベーションを上げて勉強するようになっていきました。
昼休みなどを使い、頑張っている人もいました。
勉強会は1回に20~30人が参加します。
その場で手を上げ、「分かりません」という人はあまりいませんでしたが、私が自席に戻ったあとで質問に来てくれる人もいました。
みんなが真剣に向き合ってくれているのが分かり、うれしかったです。
CPP取得で実務に役立った点とは?
森宮
受講者、合格者のインタビューというより、講師のインタビューみたいになってしまいましたが、今回は組織全体で取り組んでいることを紹介したいので、その点も強調したいと思います。
講師という人に教える立場になると、知識がさらに身につくと思いますが、実際にCPPに合格して資格を取得したことがみなさんの業務に役立ったでしょうか。
五十嵐
業務面では先ほど取引先の登録審査についてお話しさせていただきました。
財務のところでは、普通にBSやPLの情報、流動比率、自己資本比率などについて学びました。
簿記会計の知識は、ある程度持ってはおりましたが、登録審査をする過程で、あらためてこういう知識は持っておくべきだと感じました。
また、調達部門に所属する者は、登録業務に関わらなくても、最低限こういった知識は抑えておくべきだとも感じました。
例えば、以前行っていた損益分岐点の分析などにおいても、分析に必要な関連知識を再確認できたのは資格取得に向けた勉強に取り組んだおかげでしょう。
それから、東京電力ホールディングスはこれからの資材部門のあり方について、いろいろな資料を作っていますが、テキストに書いてある調達基盤の強化などはCPP資格の勉強をした結果、資料の内容がすっと頭に入ってくるようになりました。
やらされ感を持ちながら業務を進めるのではなく、納得感を持って方向性を感じられるようになった気もします。
テキストは、まずは試験勉強のためのものではありますが、合格したあとで改めて読み返してみるといいことが書いてあると思えます。
試験勉強のときと違う落ち着いた気持ちで読み返すと、なおさら良いことが書いてあることに気がつくでしょう。
今は調達部門の進むべき方向性などを確認するため、机の傍らに置き、字引きや羅針盤代わりにときどき眺めています。
森宮
松本さんはいかがですか。
松本
私が所属するセンターも今、大きく組織を改編しようとしています。
新しく調達改革に特化したグループをつくろうとしていて、その承認を得るために役員クラスに向けた調達改革の必要性を記載した資料を作成しています。
これまでの資材調達業務は割と事務的な業務にとらわれがちでしたが、今はすごくクリエイティブな仕事と受け止められるようになりました。
調達戦略を練ったうえでコストダウンを実現していくわけですから、ただの契約のルーティーンではないのです。
資料作成の際、サプライヤーソーシングの必要性を盛り込みましたが、そこでマネジメントガイドのテキストを活用させていただきました。
これからの調達組織で重視すべき6つの調達基盤の話など、テキストの内容を取り入れた部分は他にもあります。
すごく役に立っていると思います。
テキストには調達機能を強化するためにツールがいくつか紹介されていました。
他の会社がどんなツールを使用しているのかがよく分かりましたので、どんどんうちの組織でも取り入れ、試してみたいと思っています。
テキストに書いてある内容でうちが実践できるものは多いですね。
森宮
みなさんが社内勉強会の講師を務められ、業務で勉強内容を生かす中、資格を取得する仲間が次々に生まれています。
こうした状況の変化を谷口さんはどう受け止めていますか。
谷口
これまでは取引先と生産改善するとか、コストダウンに向けて不要な機能を削る際、私の方からインダストリアルエンジニアリング、バリューエンジニアリング、VE、IEについて、一から説明しなければなりませんでした。
今はCPPのテキストがありますから、基礎的なことは分かってもらったうえで、実務でどう改革していくかについて説明するだけで済みます。
発射台が随分低い位置から高い位置へ変わった感じです。
業務の高度化も高い位置から進められますので、時間的にも多分、かなり省けているのではないでしょうか。
CPPのテキストレベルからさらにどこまで伸ばせるかをテーマに話を進めることができています。
だから、従来とかなり状況が変化しました。
以前も社内の研修でそういう知識も勉強していたのですが、参加者が少なかったものですから、同じ知識を有する人が広範囲にいる状態ではありませんでした。
しかし、現状はCPPの資格を持つ人が次々に生まれています。
前と話の内容がすっかり変わった人、話しぶりから知識がついたことが明らかな人も少なくないのです。
CPP資格A級受験のきっかけは何か?
勝田
五十嵐さんはCPPのA級を取得していらっしゃいますね。
A級まで受験しようという雰囲気が社内にあったのでしょうか、それとも自発的に受験されたのですか。
その辺りをお聞かせください。
五十嵐
A級の受験に関しては一定以上の条件が必須となっていました。
勝田
そういうのがあったのですね。
五十嵐
一応ありました。
私ども社内認定資格を持つ者は希望すれば受けられる決まりになっていました。
B級で学び、次にA級があることが分かっていたので、せっかく蓄積した知識をここでリセットしたくないと思い、チャンスを生かして挑戦することにしました。
A級に合格したときも勿論うれしかったのですが、最初にB級に合格したときの方が喜びは大きかったような気がします。
谷口
4人でやった祝勝会は本当に大盛り上がりだったよね。
松本
そうですね(笑)。
勝田
私も担当をやるからにはお客様と同じ苦労をしないといけないと思い、挑戦したところ、B級は1回落ちてしまいました(笑)。
それで必死になって身内の特権でセミナーに参加し、プライベートではカフェなどで勉強したのです。
五十嵐
勝田さんの記事は以前読ませていただきました(笑)。
松本
A級は、特別管理職をはじめとして、資材での経験が長い方、全体のマネジメントを担当される方向けということだったかと思います。
なので、自分には少し早いかなと最初は感じていたのですが、私たちはB級が受かったちょうど1年後ぐらいに受け、合格しました。
そのあとでラッキーなことに勉強会の講師も務められました。
人に教えるためにはきちんと振り返りをしなければなりません。
自分が受験するとき以上に内容を咀嚼し、言葉にして伝えることで、よりいっそう理解を深めることができました。
共に講師を務める五十嵐もいるから、いっしょに受けようと思っていました。
五十嵐
松本も私も会社の負担でA級のセミナーに行かせてもらいました。
そのときはお互いにもうやるしかないという気持ちでしたね。
A級受験で苦労した点とは?
森宮
でも、A級はB級と違っていますよね。
みなさんから「テキストはないの」と聞かれることがよくあります。
五十嵐
セミナーの冊子はいただきましたよ。
セミナーでは出題の傾向なども教えてもらいました。
勝田
練習問題もありますね。
五十嵐
実際に受けてみて分かったのですが、テキストに書いてあることは、まず出ませんね(笑)。
B級は基本的にテキストから出ますから、それが一番の大きな違いでしょう。
結局のところ、A級はテキストの内容を理解したうえで、どう判断すべきかを尋ねられます。
そこが苦労したところです。
それと実際に感じる自分なりの手応えとスコアとのかい離が大きく、対策が立てにくい面もあります。
松本
誤ったことを選ぶ質問があまりなく、より適したものを選ぶことが多いですね。
自分を部長クラスと仮定して回答する問題も多く、判断に困ることがありました。
五十嵐
絶対的な回答がないわけですから、そこが最も対策が立てにくい部分です。
だから、私は1回落ちました。
その時の運にもよりますが、セミナーでやったところが多く出るときと、そうでないときがあります。
私は1回目、運悪く後者に当たってしまいました(笑)。
セミナーで出たことが多く出題された回もあり、「そっちに当たったら受かったのに」と思い、その時は悔しかったですね。
でも、悔しがっていても仕方がないので、対策が立てにくいのは覚悟のうえでリベンジを誓い、あとから受験する松本と、知り得た少ない情報を共有して勉強し、約1週間後のリベンジ試験に合格しました。
松本
私も1回落ちています。
他の人の意見を聞きたくて、記憶をたどりながら「こういう問題にこんな選択肢が出て、私はこれを選んだけど、どう思いますか」と相談していました。
そうやって仲間の協力も受け、一週間後に合格しました。
いっしょに取り組める人がいたのはやはり大きかったです。
それをやらせてくれた会社のおかげといえるかもしれません。
社内のモチベーションアップの方法とは?
森宮
ほとんど戦友のような感じですかね。
別にもう1つ聞きたいことがあるのですが、部長の直筆の手紙をメールで発信したのをご存知でしたか。
五十嵐
それは知っています。
特別管理職級が29年1月に受験したのですが、その次は29年7月にチームリーダー級が受験することになりました。
チームリーダー級は年配の方が多く、どうしたら、やる気になってもらうか、モチベーションを上げてもらうかが課題でした。
そこで、谷口が中心となって知恵を絞り、部長にメールを送っていただいたら、やる気が出るのではないかと考えたようです。
そうしたら、当時の部長が、手書きで手紙を書いてくださったそうです。
森宮
その部長の一筆を添えてCPPについてのメールを送ったのですね。
五十嵐
そのようです。
そういった工夫をして、モチベーションを少しでも上げようとしたのだと思います。
森宮
組織で何かを導入するときに順応するのが早くて結果を出すのも早いのが、若手ですよね。
経験があり、年齢を重ねていると、今さら感があり、モチベーションを上げるのが大変と聞きます。
五十嵐
資材部門は今、技術系の社員がだいぶ多くなってきました。
谷口から話があったように、業務の高度化が関係しています。
これまでは来たものをミスなく、厳正的確に契約するかに重きを置いていましたが、請求が来る前に請求部門や取引先と上流で工夫しようという方向に変わってきています。
その結果、パイプ役として、技術系の社員に活躍してもらう機会が増えました。
それで技術系の人が増えているわけなのですが、その方たちが受験してあっさり合格しています。
もちろん勉強会などもしていますが、やはり新しい部門に異動してきて「この資格を取らないといけない」というモチベーションが高いことも影響していると思います。
逆に、資材部門の経験が長い人はそこに油断が生じて、合格できないケースもあります。
だから、技術部門から来たばかりの人が合格すると、俺たちもやらないといけないという雰囲気になります。
その効果は確かに出ています。
特別管理職級から率先垂範で段階的に展開していますが、雰囲気は確実に変わってきました。
以前は「特別管理職級で何かやっている」という反応でしたが、段階が進むと次に何かあるらしいという空気が流れ、自分たちもやらないといけないという雰囲気が自ずと出てきます。
そういう意味では上層部からの全面展開は良かったと思います。
松本
技術系の人はあまり変な先入観がないので、資材とはこういうものだと素直に受け入れているようです。
中には「読み物としてすごく面白い」という人もいます。
幅広く学べる内容ですから、新しい部署で仕事を始めるにあたっての導入テキストとして読んでくれているみたいです。
本当に試験のための勉強ではなく、実務に生かすための勉強という感じでしょうか。
結構、合格率が高く、実務の力にもなっています。
五十嵐
廃炉に必要な設備の調達を担当している技術系の1人は、独自に自費でテキストを購入し、自分で受験して合格していました。本当にモチベーションの高い人です。
CPPを組織の底上げにどうつなげる?
森宮
資格を取るというより、組織として変わらなければいけないという空気に乗って、物事が進んでいるようですね。
松本
そうです。
組織の方針も数年前から、戦略業務に特化していこうとしています。
でも、具体的にどうすればいいのか担当者レベルまで浸透させ腹落ちさせるのが難しかったです。
それがCPPを受験するようになり、上位職者の思惑をみんなが理解できるようになってきました。
私も具体的に分かってきたと感じています。
五十嵐
私ども資材部門は最終製品を調達する部署です。
テキストはメーカーの調達部門に関する内容が多く、ある程度想像力を働かせないと理解できないところもあります。
ただ、そういった知識を持たなければ、何もできません。
その土台作りとしてこの全面展開は効果があったと思います。
先ほど谷口が発射台という言葉を使いましたが、この点を意味しているはずです。
何かいったとき、「それは何ですか」「そこから説明して」となるのと、それを知ったうえで「それならこうしよう」と返事が戻ってくるのとでは全く違います。
その土台は生まれつつあるように見えます。
自分のことを棚に上げてしゃべっていますが、雰囲気としては底上げができつつあるのではないでしょうか。
勝田
インタビューをするとよく共通言語、共通認識という言葉が出てきます。
それにより、説明の時間と手間が減るわけです。
その時間をより高度な議論などに割けるのは、個と組織が一体になっているからだと思います。
うまく何かを活用するためには、個人だけではだめだし、組織だけでもスムーズに進みません。
御社も含め、個と組織の一体化ができている会社は、いいスパイラルが回っていると感じます。
五十嵐
これは勉強会でお話しさせていただいたことですが、今の車はエアコンが標準装備で、ついていて当たり前です。
私が子どものころとは随分違います。
それと同じように今の資材部門はCPPの知識を標準装備しなければならないのです。
だから、その底上げの役に立てたのは光栄です。
組織導入を検討する会社へのメッセージは?
森宮
五十嵐さんから組織としてこれだけの合格者が出て、CPPの知識を標準装備にしなければならないというお話が出ましたが、谷口さんから今後こうした取り組みをどう生かしていくのかを教えていただきたいと思います。
組織として導入にためらっている会社がまだまだ多いのが実情です。
元気のある個人が孤立気味に奮闘しているという話もよく聞きます。
ぜひそうした方へメッセージをお願いします。
谷口
CPPを勉強すると、勉強のくせがつきます。
会社員になると自己啓発の機会はありますが、日々の仕事に流されてしまい、なかなか腰を据えて勉強するチャンスがないものです。
ただ、勉強して知識をインプットしておかないと、高いレベルのアウトプットをするのが難しくなります。
これまで目指すべき資格がなかった調達の仕事に関してCPPができました。
広範囲の知識を得るために、ぜひ受験していただきたいと考えています。
ためしに受験してみて使える資格だと感じたなら、組織的に導入してほしいと思います。
組織的に導入する方法は、いろいろなやり方があるでしょう。
業務時間外を使い、草の根的にみんなで盛り上がってやっていく方法もあるでしょうし、会社のビジョンとして進めるのなら、トップの人を口説くべきでしょう。
私たちの場合はトップが調達の高度化を進めるために改革の旗を振ってくれたので、引っ張ってもらうことができました。
どっちのやり方もありだと思いますが、課長や係長が受験してくれないという話をよく聞きますので、上の人から順に受けてもらう方がスムーズに進みそうです。
日本全体でこういうことを進めていけば、調達のレベルが上がり、日本の国際競争力もアップすると思います。
組織として取り組むことを私たちはおすすめします。
森宮
ありがとうございます。
非常に多岐にわたるお話をうかがえ、有意義なインタビューになりました。
感謝いたします。
谷口
私たちからするとCPPの勉強会を考えることが、人に伝えるという意味で大変に勉強になりました。
こういう勉強会はeラーニングでやった方がいいという意見もあるでしょうが、本当に大事なことはeラーニングだとなかなか伝わりません。
大事なことは対面で伝えなさいと、研修のセオリーにもあります。
それと、個人に任せるとどうしてもやる気が起きないこともありますから、一斉に勉強した方が効果が上がります。学校の受験のときも、そうでしたよね。
そういうことも今回の取り組みで学ぶことができました。
森宮
本日はどうもありがとうございました。