サンゴバン 機能樹脂事業部 インタビュー

サンゴバン株式会社機能樹脂事業部 パーチェスマネージャー 嘉瀬 清司様(CPP-A級資格取得)に、資格取得の背景やご活用についてお伺いしました。(※以降敬称略、所属・役職は2021年11月26日時点)

吉田
宜しくお願いします。それでは、嘉瀬さんの現在のお立場について教えてください。

嘉瀬
はい、弊社はサンゴバンジャパンの機能樹脂事業部の購買を担当しており、現在は2名体制で行っています。

吉田
ありがとうございます。先程のお名刺交換で、嘉瀬さんは、マネージャーということを拝見しましたが、プレイヤーとしても購買業務を行いながら、メンバーの業務管理をされているのでしょうか?

嘉瀬
購買調達の全体業務を行うのはマンパワー的にできないので、各製品グループに発注計画担当者、発注担当者、在庫管理担当者がいます。その人たちは、各グループのマネージャーにレポートします。

私は、発注計画、発注、在庫管理等の仕組みを作り、仕組み上の何か不具合や非効率なことがないかチェックしたり、仕組みを更新したりしています。具体的には、サプライヤーさんとの交渉、ルール作り、今のサプライヤーさんの政策決定を行っています。

吉田
交渉には、価格交渉も含まれているのでしょうか?

嘉瀬
そうですね。ある程度の金額以上の物は行っています。

吉田
他には、間接購買などもやられているのでしょうか?

嘉瀬
そうですね。やっています。

吉田

ありがとうございます。
サプライヤー管理の部分でお伺いできればと思うのですが、コロナ禍で監査に行くことが難しい、ということを良くお伺いするのですが、御社の場合はいかがでしょうか?

嘉瀬
やっぱり現場にいけなかったので、全然できなかったですね。監査に関しては、今年は2件しか行くことができなかったです。
1件は新規採用先だったので監査に行く必要があって行きました。その時は、コロナの感染状況の谷のタイミングでしたね。もう1件は、書類監査です。
監査の内容に関しても、この2年でSDGsに関する要素が入ってきて、チェックシートもだいぶ変わってきています。
そういう点では、従来の監査の繰り返しだけはなく「CSR要素を満たしてくださいね」というメッセージ性のある監査チェックシートを作り、配布する、ということでは意味がある、変化がある2年だったのかな、と感じています。

吉田
なるほど。今キーワードで「SDGs」がでましたが、御社の購買・調達における考えなどお聞かせください。

嘉瀬
我々は、母体がガラスメーカーなので、カーボンフットプリントが大きな懸念点になっています。「二酸化炭素排出削減」「電力などのカーボンタイプサイトの量削減」、最後は「サプライチェーンの購買物に対する二酸化炭素の量削減」という3段階あります。スコープ1、2が重点ですけど、3も同時に始めています。
ただ、企業価値が社会資本的な角度から見ることは、目に見えない株主などステークホルダーのハードルがあると思っています。

購買視点からは、“ステークホルダー資本主義”といった観点で購買をしたりすることで、“本当の意味でのサステナビリティ”を地道にやってかないといけないな、と感じています。

社内方針はあっても、基準がないので、それこそ国際基準に従った水産資源、木材、コンフリクトミネラルの購買であったり、ILO基準であったり…等やっていますけど、それは単なるコンプライアンスなので、やっぱり我々も『企業価値の向上を目指すアクティビストとしてのリーダーシップを取らなきゃいけないはず』と感じています。

例えば…
「サンゴバンジャパン機能樹脂事業部は結構うるさいよ、でも、あそこに行くと何でこれやっているのかが分かるよ、勉強になるよ」と言われるような活動をしていきたいな、と思っています。

吉田
「ステークホルダー資本主義」この点をもう少し詳しく聞かせてください。

嘉瀬
売上高(トップライン)の中にコストがあって、その下に行くと最終的な利益(ボトムライン)がありますよね。我々の仕事って、ずっとこのトップラインとボトムラインを多くして、その間のコストはなるべく小さくするにアクションしてきています。

ただ、ステークホルダー資本主義っていうのは、この間にあるコストの部分も大事なんだよ、という考え方です。

例えば、従業員のコスト、環境コスト、廃棄物コストなどありますが、その他にも、事業継続のBCPの観点から多様な企業から調達しなくてはいけないと考えるとコストがかかりますし、資本力のないところに対して我々が指導していく、ということにもコストがかかります。

ただ、「そのコストが一体どれぐらいの人たちに良い影響を及ぼしているのか?」ということが、実は企業の持続可能性を見て行く時に必要なことなんですよね。

我々はプロフィット&ロスを見るとトップライン→コスト→プロフィットって見ていますよね。
このコストの所に、きちんと「企業の持続性を担保するための要素が入っているか?」、「ステークホルダーにメリットを与えているか?」と考えることがステークホルダー資本主義の考え方ですね。

吉田
なるほど…、なんかこの話ずっとできそうですね(笑)ただ、時間もあるので、少し話題を変えてもいいでしょうか?

嘉瀬
そうですね(笑)

吉田

少し話題を変えまして、嘉瀬さんはCPPホルダーでいらっしゃいますが、CPPを取り組むきっかけや、課題感などを教えてください。

嘉瀬

やっぱり「購買のプロフェッショナル人材」がいなかった、ということですかね。弊社の規模では購買を置く余裕は無かったんですよね。
そうなると、工場の製品グループのエンジニア、あるいはそのサプライチェーンの方がサプライヤーさんと交渉するのですが、交渉の仕方なんて皆分からないわけですよ。

ただ、交渉には内部規則があり、例えば何社以上から見積もりを取りなさいということだけでは、誰も得しないですよね。例えば、サプライヤーさんは、製品仕様も決まってないようなめんどくさい見積もりに付き合わせることになりますし、絶対取れないだろうって思うかもしれません。弊社は弊社で、別にやりたくないことをやって、そして関係だけが悪くなって終わる、そんなことが続いていたんですね。

その中で、私が内部統制の関係で購買部門が必要だということで最初に始まったのですが、当時より「やれることが沢山ある」と感じました。

それまで購買をしていた方たちは、サプライヤーさんに相見積りを取ることが「大変申し訳無い、心苦しい」といったように感じていたようでした。
ただ、そのようなことを感じることは不要で、弊社として新しい技術を取り入れる機会であり、サプライヤーさん側の営業という立場では、案件を持ってきてくれるお客さんはありがたい、と思っていただいています。

大切なのは、関係性をきちんと築けるようにお断りするときはきちんと断り、購買仕様もきちんとする、見積もりを取る時には公平・公正・透明の3つがきちんと担保されていたら、どんなことだって嫌と思われない、ということを内部で共有していき、今は良い感じになってきています。

吉田
CPPでそのような内部の悩みが解消されていったのですね。CPPはどのようなきっかけで知ったのでしょうか?

嘉瀬
実は、CPPガイドだけを持っている社員が1人いまして、その方に借りて読んだ時に「これこれ!これを知りたかったんだ!」と思ったのが第一印象です。
その後、きちんと勉強するには「やっぱり資格取る」という目標を自分に甘えないように掲げました。

吉田
先程、製品グループでも購買機能を一部持たれているということを伺いましたが、その方々も取り組まれていらっしゃるのでしょうか?

嘉瀬
その方々にとっては、ちょっと負荷が大きいかなと感じています。
理由は、その方々の見積もり業務は、業務の10%に満たないからですね。
ただ、購買部門として人が増えた時には、組織として取ろうかな、と思っています。

吉田
因みに、嘉瀬さんが考える購買・調達プロフェッショナル人材の定義について教えてください。

嘉瀬
やっぱり目的をちゃんと把握しているっていうことですね。あとは、引き出しがいっぱいあるということですね。
購買活動は外部の協力者が増える活動なので、サプライヤーさん嫌がる会社になってはダメだなと思っています。

吉田
そうですよね。協力会社が本当の意味で協力してくれる、先ほどのお話より、事業の広がり、効率化、思わぬ提案など、関係性を築くことでできたりしますよね。

嘉瀬
あと、やっぱり仕事も早くなりますよね。サプライヤーさん側で扱っていない製品の場合、別な会社を紹介してくれたりします。

吉田
なるほど。先程の、引き出しの多さというのは協力会社さんの繋がりの多さでしょうか?

嘉瀬
交渉の時の引き出しの多さですね。
交渉は、ある意味「準備」ですよね。準備が足りない交渉をほど、相手を失望させるものは無いですよね。
単なる力押しになって、片方が儲けて片方が損する、みたいになるんですよ。

例えば、テーブルの上に置いてあるピザだけを奪い合うような交渉はしてはいけないと思っています。
きちんと準備して自分の周りに何があって、自分の所からは何を供給できて、サプライヤーさん側には何があって…、というのことを、できる限り調べ尽くした交渉だと本当に損がない交渉ができるので、そういうことができる人が「交渉する時の引き出し多さ」の意味合いで、かつプロなんじゃないかな、と思います。

吉田
お互いのWin-Winを引き出せるような人、ということですかね。

嘉瀬
そうですね。

吉田
嘉瀬さんと一緒にお仕事されている方も嘉瀬さんのようなマインドを持たれていらっしゃるのでしょうか?

嘉瀬
その方は、施設関連の購買を行っているのですが、JMAさんの講座を受けてもらいました。
私の考え方としては、若い人だけ、伸びしろがある人だけを教育していこうという考えはありません。
「“歳関係なく”その人のキャリアを精一杯使って仕事行ってもらいたい」と思っていて、研修を受けてもらいながら徐々にマインドを上げてい行ってほしいと思っていますし、実際にマインドが上がってきています。

吉田
なるほど。その人の能力を引き出す、その人の可能性を広げる、といった、嘉瀬さんの人に対するやさしさと熱い思いを感じました。
御社で何か教育体系のようなものは整備されていらっしゃるのでしょうか?

嘉瀬
実際には、そこまできちんとした体系などは、これからかなと感じています。
ただ、今一緒に仕事をしている方とは、お互いの得意・不得意を補い合いながら仕事ができているかな、と感じています。
やはり大事なのは、「スキル的な補い合いをしながら、目標もシェアしながら、チームとして活動する」ということかな、と感じています。

吉田
CPPガイドは、ご存知の通り分厚いですが、何かそういう点での取組みづらさ、学習方法の工夫などはありましたでしょうか?

嘉瀬
確かにCPPガイドは分厚いですが、かなり広範囲に網羅しているので、これは一つの型と思っています。
CPP-B級試験対策セミナーなどの講習に参加して、一度内容を全体的に聞いて、要点を掴んでから、CPPガイドを取り組んだ方が効率的なのではないか、と思います。

吉田
なるほど。事務局でも新しい発見です。セミナーを受ける方は、CPPガイドを勉強して、試験を受ける前の最後の追い込み感覚で受けているのかと思っていました。
最初にセミナーを受けたことで、CPPガイドの学習時にどのような印象を受けましたか?

嘉瀬
そうですね…、
CPPガイドには、XY軸を使ったチャートや4象限を使った説明が多いと思うのですが、図を見る時って、その縦軸と横軸が何を示しているのか、ということをきちんと理解している人って案外少ないんですよね。

でも、講習受けると縦軸、横軸の意外性や、理解が進むと思います。

吉田
形は覚えていても、意外と「その理由ってなんだっけな?」って後々になって考えたりしますよね。

嘉瀬
そうなんですよ。

吉田
具体的にどの部分が、とかありますでしょうか。

嘉瀬
そうですね、知識ガイド3に、そのようなことが多かったかな、という印象ですね。

他には、購買要求仕様や見積書の様式は必要な要素をすぐに導入できるので重宝しました。
ちょうどそのタイミングで量産部品の加工の難しい製品の見積もりがあり、予算内に収めた上でかなり効果が上がる結果となりました。

今、ガイドを開いてみますと、コストリダクションに対する、4つの要素「買い方」「調達政策」「作り方」「仕様」は説得力があると思いますね。 ※マネジメントガイド記載
これを元に、マインドマップなどを使ってエンジニアリングの方と話をすると、結構アイデアが出てきたり、調達政策を変えたりしましたね。

吉田
マインドマップはCPPガイドには記載はありませんが、どのように使われているのでしょうか?

嘉瀬
そうですね。
今年は、値上げが特に多くて、マインドマップなどで話を整理していかないと、関係のない話と関係付けられてしまったりするので使っています。
価格の話も、弊社は外資系ということもあり、母体からのトップダウンで実施することがあります。
でも、そうは言っても、やっぱり人と仕事しているので、あまり理に合わないことは言い辛かったりするじゃないですか。また、その中では、開示できないことも当然多々ありますよね。

ただ、「開示できないのは分かります、だけど理由はこうですよね」という確認や、
「私はそちらのサービスを使わしてもらっている立場で、そちらに損を押し付けようとは思わないけど、そちらが我々の損を気にしないとしたら、それはやっぱりおかしいと思わないですか?」
という相手の立場を理解した上で話をすることも大事だと感じています。

例えば、お互いに情報開示できないのは理解しながらも、サプライヤーさん側で15%の値上げ要求をしてきて、その結果逆算した原価率が70%になったとします。

相手が我々の立場を理解して言っているのかどうかにもよりますが、もし理解して言ってきているとしたら、
「もし今後、市場価格が下がった時に、本当に値段を下げることはできるのか」
という相手の立場を考えた上で話をすると、相手もあまり無茶なことは言えなくなるので、分析やマッピングのようなことは、交渉時にやっておくと良いと思います。

吉田
以前、お話したCPPホルダーの方も購買調達が、よりロジカルになったというお話を思い出しながら聞かせていただきました。

嘉瀬
そうなんですよ。ロジックなんですよね。

吉田
事前アンケートで海外でも使えた、ということを拝見しましたが、具体的なエピソードなどがありましたらお聞かせいただけますでしょうか?

嘉瀬
直接、海外から買うということは、そこまではないのですが、LCC(ローコストカントリー)から購入するとき等で見積、与信、契約、為替の限界点などは必要な情報だと思いますね。

吉田
御社は凄いグローバル企業でいらっしゃいますので、例えば全体のガイドラインや値決め等のような場面での事例等ありますでしょうか。

嘉瀬
私はローカルパーチェサーで、他にカテゴリパーチェサーがいます。カテゴリーパーチェサーが、グローバルな横串、いわゆる仕組みを考えています。
国内でも海外でも調達では、価格トレンドなども把握しているので、その価格調整や交渉などでCPPの知識が使えたりしますね。
実際に、現場で取り組んだことの無い課題が出た時にはテキストを開いてヒントをもらっています

吉田
なるほど、やはりグローバルな情報網がしっかりされていらっしゃるんですね。

嘉瀬
そうですね。ベストプラクティスみたいなものも共有されます。あとは、購買という組織が社内でも特殊というか、かなり色々な方が関連している組織なので、色々な所から「このデータはどうなっている?」という問い合わせが来たりします。

吉田
そういう方たちと話をするときCPPが役に立ったなどありましたでしょうか。

嘉瀬
ありますね。CPPの用語などを用いてやり取りするとき、相手も理解していただいているので「あ、これって共通言語なんだ」って思ったことはありますね。
ただ、私のように調達歴が浅い人間と、海外で何十年も調達をしてきた人では、迫力が違います。味わってきた苦さというか、経験、身に沁みついた“計算する癖”が圧倒的に違うなと感じています。

吉田
ありがとうございます。
CPPを資格取得した後の目標についてお聞かせください。

嘉瀬
先程、購買の人数増やしたいという話をして、これを権力を増やすということに捉えていただきたくないです。
購買はローテーションワーク、ルーティンワークという風に思ってほしくなくて、やっぱりプロフェッショナルなスキルが無いと、それなりの結果が出ない、逆に言うと、プロフェッショナルなスキルを身につけることで結果はでると思っています。
サプライヤーさんとの癒着を防ぐという意味ではローテーションは必要ですが、意味もなく他部門とローテションさせるというのは気の毒だと思います。
人生100年時代と言われている中で、購買調達を1つの学び直しと言うか、リカレント教育の1つとしても捉えても良いかな、と思っています。
そして、「その道(購買)のプロフェッショナルとして、その人の人生の中で役立ててほしい」そんな風になってほしいと思っています。

吉田
今のお話を伺って、以前別の方から、「製造や開発部門の方が一度購買に異動して、モノの流れ、お金の流れ、コスト管理等を知って、また戻ってもらう」、「購買はコスト管理、法務、CSR、交渉、調査など経営そのものだ」という話を連想しました。
そういう視点で言うと、嘉瀬さんが先程お話された中では、購買調達の業務には、視座の高まり、視野の広がりなどがある、ということを嘉瀬さんご自身がお考えになられていらっしゃるのかな、と感じましたが、いかがでしょうか?

嘉瀬
その通りです。本当、購買業務は面白いですよ。ただ、サプライヤーに値下げを要求しているだけだろうと思っている人もいるかもしれないですけど、全然そんなことないです。
先ほどの話の中で、製造や開発部門の人に一度経験させるなど、他企業でも伺うことがありますが、極端なことを言うと、モノの値段はカタログみたいな形で並べておけば良いと思ってます。

もし、購買部門に行かせるのであれば、“本当にその人を育てて欲しい”ですよね。
購買の交渉が、先ほど話した中で限られたパイを奪い合うようなことをさせている、しているようだったら役に立たないです。
『交渉してずっと長期的な関係を築いていく』、ということは『ライフスキル』ですよ。

吉田
ありがとうございます。最後にCPPを検討している方にメッセージをお願いします。

嘉瀬
CPPを勉強することで、他のことを勉強するきっかけになります。
人間の学習する能力は、学び続けてれば絶対下がることは無いと思います。
ただ、学ぶことを一度辞めると、学ぶ力が落ちてしまいます。
量は多いですけど、勉強になります。B級とったあと、A級をとるのでもう一度学ぶことができます。
学びのチェーンが続くと、それは、いずれ結晶となって、必ず役に立つ『ライフスキル』になりますので、是非頑張ってほしいと思います。

吉田
本日はありがとうございました。

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