新日鉄住金エンジニアリングインタビュー
「調達(Procurement)の部分について、調達本部が、横断的に必要な設備機器、鋼材、資材を購入し、現地工事の請負契約をする機能を担います。」
CPPホルダーの新日鉄住金エンジニアリング 横山茂生さん(調達本部 調達企画部 外注契約室 シニアマネジャー)、八島一裕さん(調達本部 調達企画部 鋼材調達室 室長)を訪問しました。
(以下敬称略、お役職はインタビュー当時)
エンジニアリング会社の調達の特長とは?
--新日鉄住金エンジニアリングの横山様、八島様にインタビューをさせていただきます。
はじめに、横山様、八島様の現在のお仕事内容を聞かせていただけますか?
(横山)
調達企画部 外注契約室の調達企画チームに所属しています。
調達本部は、事業部制組織である全社の横串機能を担う組織で、その中で私は本部内の各調達部員の人材開発の責任者をしております。
(八島)
私は同じく調達企画部で、鋼材の調達を担当しています。
新日鉄住金の厚板、形鋼、銅管などの鋼材を手配するのが一番大きな仕事になります。
鉄の需要を増やしていく手伝いをする部署で、とりまとめをしており、
弊社の本体だけではなくて、国内外の子会社(工場)での所要鋼材をも含めて、価格、デリバリーなどを、すべてコントロールしています。
海外にも拠点がありますね。
--横山様は人材開発を、八島様はバイヤーとしての業務に取り組まれているということですね。
御社の調達には業種的な特徴があるとのことですが。
(横山)
弊社は、業種としては建設業(エンジニアリング業)に分類されます。
弊社はセグメント別の組織になっていて、製鉄プラント、環境ソリューション、エネルギーソリューション、海洋、及び建築・鋼構造といった事業部からなります。
弊社が客先から受注した個別プロジェクトの実行を進めるに当たり、
「設計(Engineering)」、
「調達(Procurement)」、
「工事(Construction)」
が仕事の具体的なプロセスになります。
この「E」、「P」、「C」のなかで「P」の部分について、調達本部が、横断的に必要な設備機器、鋼材、資材を購入し、現地工事の請負契約をする機能を担います。
特徴としては、一般の製造業における部品、原燃料などを買う購買機能よりも、会社全体における買い物のウェイトがコスト的にも大きいことがあります。
「私が一番初めに試験を受けたのですが、その当時は、まだどういう制度かの認識が浸透していませんでしたが、“これはいいものじゃないか!”ということで、次第に広がってきました。」
系統立てた調達購買知識が必要な理由は?
--現在、貴社調達本部では35名の方がCPP・B級資格を取得されていて、異動者を含む累計ベースでは60名程度の方が資格をお持ちです。
CPP資格制度を導入する前にはどんな課題があったのでしょうか?
(横山)
調達本部は、プロジェクト実行に必要となる財貨・役務を「どこから何をいくらで買うか」「商務条件をどうするか」といったことをベンダーと交渉して確定させ、売買契約・請負契約を締結し、物のデリバリーも管理し、代金を支払う総合的な機能を担っています。
従来のマニュアル、あるいは先輩から引継いだ積み上げ的な知識だけではなく、系統立てた調達購買に関する知識を、演繹的にまとめるニーズを感じておりました。
そのために系統立てた学習手段を探しておりまして、そのニーズに合致したCPP資格制度を組織として導入し、取り組んだという背景があります。
(八島)
その当時は、各事業部のやり方で、それぞれが調達をしていましたが、CPP導入の少し前に、調達本部としてまとまって業務を遂行することになりました。
ちょうど、CPP資格制度が設立された時期だったので、「基軸となる考え方を持つ」ために試しにCPPを勉強してみようということになったのです。
その他の背景として、一般的な意味での「調達」機能が「何であるか」「何をやっているか」を十分に知っているとは言えない面もありました。
それらをきっちりと整理して組み立てなおそうということになりまして、導入してみました。
私が一番初めに試験を受けたのですが、その当時は、まだどういう制度かの認識が浸透していませんでしたが、「これはいいものじゃないか!」ということで、次第に広がってきました。
現在は、マネジャーになるための必須の資格になっていて、かなり浸透してきたと思います。
--組織の変更にともなって「基軸となる考え方」を求めていたということですね。
(八島)
はい。
それから、教育にも積極的な組織ですので、人材のレベルをあげていくという意味でも導入してみようということだったと思います。
--調達本部トップの方のご理解はいかがでしたか?
(八島)
むしろトップのほうが、積極的でした。
なぜかというと、「調達のやっていることが、社内的にはよくわからない」という理由が、あったと思います。
CPP資格制度を基軸とすることで、一般の標準に沿って業務を行っているという証明になると思います。
「おのずと“学びたい”という雰囲気が醸成されていったという事だと思います。」
「まず、やってみる」ことのメリットは?
--CPP資格制度の導入にあたってどんなことが困難でしたか?
(八島)
2007年にCPP資格制度が始まって、当時の室長が各室から数名ずつ指名して受けてもらいました。
(横山)
トライアルではじめたのです。
(八島)
そこから始まっていますので、導入にあたっては、「やってみてから評価する」という考え方でした。
我々の順番が逆なのかもしれませんが、「世間一般がやっているからやった」ということではないのです。
そういう意味では導入にあたっての困難性というのは、感じませんでしたね。
--トライアルの評価を経たあとに、社内展開される段階ではいかがでしたか?
(横山)
調達部門を統括する調達本部長、及び各調達部長の了解も得ていますし、受験料も会社負担にしています。
そういう支援をすることで、個人のニーズにも合致したと思います。
また、本部組織として、「横串機能を強化する」、あるいは「集中購買をやっていく」ために、基盤になる調達に関する行動指針や内部統制や規程類を整備していくことは必要条件になります。
その面で、組織のニーズにも合致していたので、特に障害、障壁は、無かったです。
(八島)
強いていえば、「試験を受けることを強制していいのか?」という点があるか、とは思います。
忙しい人もいますし、受けたくない人もいます。
その人達に共通言語で話すまでレベルアップをしてもらうのですから、それなりに個人に負荷がかかります。
勉強する内容も簡単ではありません。
どこまで強制できるかは難しい面があるだろうと思います。
また、「調達実務を知っている」と自負している人達に、世間一般の他社のしていることを知ることのメリットを理解させるのに困難性はあったかもしれません。
--そういう方にはどのように対応されたのでしょうか?
(八島)
無理強いはしないということです。
トップがいくらやれといっても、やらない人はやらないです。
最終的には、その人が必要性を感じるか感じないか、個人次第だと思っています。
そして、必要性を認識している周囲のものが学んだ知識を業務に活かすことだと思います。
職位が下の者も含め、周囲の人達が、一生懸命学び、知識を身につけて行くのをみて、「ベテランが、それでいいのか?」という思いを抱くというのは自然なことだと思います。
私たちは、そこのマインドをどういうふうにアップするか、サポートするか、の環境をつくることが大事だと思っています。
--そういう方々もだんだん受けるようになってきたのでしょうか?
(八島)
はい。自分達が取り残されていくのは格好悪く感じる面もあるかもしれません。
(横山)
おのずと「学びたい」という雰囲気が醸成されていったという事だと思います。
ちなみに、弊社には組織単位での社員の努力に対しての表彰制度があります。
一昨年、このCPP資格制度への取り組みを含めた組織的な調達力向上活動について調達本部が受賞しました。
先ほど申し上げたように、エンジニアリング業における調達のウェイトは大きくて、良い物を競争力ある価格で買うことは会社の営みとしては重要なことです。
その基盤整備として、組織的に取り組んだことが表彰理由となりました。
「CPPの知識を得た者が、その後の人事ローテーションで、事業部で営業をしたり、プロジェクト管理をしたりすることもあります。」
調達の人材育成のテーマとは?
--人材育成の考え方にCPPのどんな点が役に立っているでしょうか?
(横山)
人材育成におけるOFFJTは、資格取得・イーラニングなどと、階層別・グループ別の集合研修があり、CPP資格制度はそのひとつとして活用しています。
また、ジョブローテーションをからめた人材育成があり
初任配属で調達本部に配属され、その後のローテーションで他部門に異動し、また調達に戻ることがあります。そういう人事異動とからめた育成も一つの大きな柱になっています。
最近のテーマでは、世の中一般で言われている女性の戦力化があります。
直近で合格した女性のバイヤーの方からの声を紹介しますと、
「調達担当として知るべき知識を幅広く得られた。」
「担当業務が変わったのですが、新しい業務にも実際に活かせている」
ということで、CPP・B級資格の受験を通じて学習したことが、まさに知識として身について、助かっているという内容です。
次のテーマとしては、海外に関する業務があり、海外プロジェクトを受注し、海外からの買い物もさらに増えていく予定です。
今まで買ったことの無い地域からの海外調達のウェイトもかなり高まってくると思います。そのためのノウハウが必要になってくる。
海外にも拠点がありますので、現地ローカルスタッフの調達力も高めるというテーマにも取り組む必要があります。
--長いスパンでの育成もお考えなのですね。
(横山)
そうです。CPPの知識を得た者が、その後の人事ローテーションで、事業部で営業をしたり、プロジェクト管理をしたりすることもあります。
そういう場合でも、CPPのスタディーガイドに書いてあることは、非常に有用性があり、その意味でも助かっていると思います。
「コストメイキングを早い段階からやるのは、非常に良いことで、これが普通だということを、ちゃんと事業部にも言えるようになりました。」
調達と営業は表裏一体とは?
--バイヤーとしての八島さんは、CPPのどんな点が役に立っていると思われますか?
(八島)
私が、一番大切だと思っているのは、「安く良い物を調達する」ということは当然として、むしろ「事業部と一緒になってコストメイキングすること」です。
早い段階で事業部と一丸となって、コスト(予算原価)を作り込んでいくということが、キーだと思っています。
CPPのガイドには、定義づけられた調達組織の役割機能が書いてあります。それが、社会のスタンダードだということがはっきり明示されています。
学ぶ以前は、自分達のやっている調達が「もしかしたら違っているんじゃないか」と思う面もあったのですが、意外とそうではなくて、むしろ当たり前であると認識できました。
結果的に各部署における役割分担を明確化するのにも役立ちました。
コストメイキングを早い段階からやるのは、非常に良いことで、これが普通だということを、ちゃんと事業部にも言えるようになりました。
事業部との関係性の中で、自分達で勝手に好きなことを言っていると思われがちなので、その辺を、後押してくれた部分が、すごく良かったと思います。
最近では、「そのコストを、調達本部にちゃんと確認したのか?」が会議で飛び交うくらい、調達部門がプロとして信頼されるようになりましたね。
それともう一つは、横山も申しました通り、調達と営業は表裏一体なところがあると思っています。
前の上司が言った言葉ですが「調達がモノを買わないとプロジェクトはすぐにつぶれる。営業は売らなくてもすぐには死なない。」というひとつの考え方があります。
逆に言えば、営業部門がCPPの内容を知っていれば、「調達が何を欲しているか」とか、「こうすれば売れる」という要素を上手く活用できると思います。
(横山)
表裏一体ですよね。売りと買いはまさにそうだと思います。
(八島)
その通りでして、表裏一体だから営業にも生きるキーワードがCPPにはいっていると思います。いろいろなエッセンスがはいっているので広がりがある。
「CPP資格制度は試験ですから結果がでるものですが、結果だけでなく、学習したことが購買・調達の実務に非常に役立つと思います。」
CPP活用で広がる可能性とは?
(八島)
個人的な話ですが、調達の資格だけではなく、CPPを勉強することでマネジメントにも興味がでました。
調達以外の他の勉強をやるきっかけになって、良かったと思っています。
--どういった分野の勉強をされたのでしょうか?
(八島)
マネジメントの世界で、ドラッカーとか孫子とかを教育に使えないかと思って勉強しましたね。
(横山)
ドラッカーや孫子、「7つの習慣」(スティーブン・コヴィ)を題材にした階層別の研修メニューがすでにできあがっています。
八島のオリジナルですよ 笑。
(八島)
そういうきっかけになったし、学んだことが広がっていくことが面白いな、と思いました。
(横山)
私自身も実は、去年の夏に中小企業診断士の一次試験に受かりまして、現在、大学院で勉強しており、同資格の経産省登録に向け準備中なのですが、そこで学習した分野とCPPがまさに合致するのです。
企業経営理論、あるいは工場の運営管理、財務会計などは、まさにぴたっとはまりました。
おかげで、勉強時間はかなり少なくてすみました 笑。
私は入社以来ほぼ一貫して購買畑を歩んでおり、製鉄部門で輸入鉄鉱石の仕入れや、原料輸送船の傭船契約や製鉄所での作業請負契約、その後エンジニアリング部門に移ってからも資機材調達契約を担当し、いわゆるProcurementを長年やってきました。
仕事の延長上にあったので非常にスムーズでした。
--これから受験をされる方や、CPP資格制度を導入されようというお会社にメッセージをお願いします。
(横山)
CPP資格制度は試験ですから結果がでるものですが、結果だけでなく、学習したことが購買・調達の実務に非常に役立つと思います。
系統立てて知識を身に付けるのに非常に有効なツールだと思いますので、ぜひ広くお使いになると良いと思います。
(八島)
日本能率協会で公開研修もやっているので、いろんな業種の方や調達の方と知り合う機会があると思います。
その中で、自分達の立ち位置を知ることや、いろいろネタが散らばっているので、その辺も上手く使ったらいいかなと思います。
自分の仕事を広げる良いきっかけになると思います。
あとは自分次第だと思いますね。
--ありがとうございました。