川崎重工業 インタビュー

調達研修の企画開催、官公庁による調査対応などのコンプライアンス関連業務など、カンパニーの調達部門を側面的に支援しています。

CPPホルダーの川崎重工業 熊代真和さん(調達本部 調達企画部 主事)にお話を伺いました。日本能率協会の安部武一郎がインタビューします。(以下敬称略、お役職はインタビュー当時)

調達企画の役割とは?

熊代真和さん(調達本部 調達企画部 主事)

熊代真和さん(調達本部 調達企画部 主事)

安部
熊代さんの所属されている調達本部・調達企画部のお役割やお仕事の内容についてご紹介いただけますでしょうか。

熊代
本社に調達本部という組織がありまして、3つの部から構成されています。
私の所属する調達企画部と素材調達部、間接材調達部の3部から構成されています。

素材調達部と間接材調達部については、特定品目について集中値決めを行うなど全社での集中購買を実施しています。
私の所属している調達企画部は、調達研修の企画開催、官公庁による調査対応などのコンプライアンス関連業務など、カンパニーの調達部門を側面的に支援しています。

安部
どのような商品をおつくりになっているのか、ご紹介いただけますか?

熊代
陸、海、空の総合重機メーカーとして、船舶にはじまり鉄道車両、航空用機体、エンジン等の航空関連製品、産業用プラント、リサイクル設備等のプラント関連製品、発電設備、水力機械などを製造・販売しています。
一般消費者向けに製造・販売している二輪車関係もあります。
また、油圧機器や産業用等のロボット製品も取り扱いをしています。

安部
7つのカンパニーをお持ちで、全体に関係してくる戦略を構築されていらっしゃる。
また、人材育成もカンパニー横断で企画されているということですね。

熊代
そうです。
全社調達部門を対象とした研修の企画・開催をしております。
全社統一的な研修は当部が企画開催していますが、各カンパニーの調達部門でも独自に必要な知識技術の研修を実施しています。

安部
全体にかかわる教育ベースのひとつとしてCPP資格制度をご活用しているという認識でよろしいでしょうか?

熊代
はい。

教える側の人材が数と時間の面で不足していました。

人材育成を強化しようとした理由とは?

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安部
CPP資格制度を知ったきっかけは何でしたか?

熊代
2010年の試験をターゲットとして、2009年にCPP資格制度の導入を検討しました。

当時、調達企画部では、下請法や建設業法といった調達業務に関連する法律や契約書の読み解きといったコンプライアンス知識を習得するための研修に特化して企画開催していましたが、調達業務が複雑化、高度化するなか、各カンパニーが個別に教育を実施しているとは言え、これだけでは不充分であるという課題認識のもと、良い教材がないかを模索していました。

そして当時の私の上司が、調達に必要な基礎知識を体系的に学べる教材、あるいは資格などをネットで調べて、このCPP資格を見つけました。
実際に、教材を試しに購入してみて「これは使えるな」ということで、活用することにしたのがきっかけです。

安部
教育を強化しなければいけないという認識から、適当なツールや教材をちょうど探していらっしゃった?

熊代
はい。
法律や契約といった知識も勿論大切なのですが、ソーシングやパーチェシングといった調達実務に関する研修を企画したかったのです。

安部
上司の方も含めてそういう問題意識をお持ちだったのですか?

熊代
そうです。

調達の技能伝承の解決策は?

安部
教育体系を充実させる他に、当時の川崎重工さんの調達に関する問題意識というのはどのようなものがありましたか?

熊代
2009年当時、団塊の世代が数年後に大量退職することによる急激な若返りに備えるために、技能伝承の必要性に迫られていましたが、教える側の人材が数と時間の面で不足していました。

若手に「教える」ということになると、一通りの業務を経験して知見を有している中堅レベルの社員になるのですが、中堅社員は油がのってバリバリ仕事をする世代ですから、どうしても日常の業務に忙殺されてしまう。
したがって、若手の教育に割ける時間が限られてしまっていました。

また、調達企画部が企画している研修では、毎回アンケートを実施しているのですが、20代の若い人からは「調達は何をどのように勉強したら良いのかがわかりにくい」という声がきかれました。

例えば、社内の他の業務を例にあげますと、経理業務であれば、世の中にはたくさんの書籍が出版されていますよね。

しかし、調達の教科書的なものは、当時まだ世の中にあまりなかった。

したがって、教育がOJTに依存することになってしまう。
しかし、先に申しあげたとおり、教育できる世代には時間の限界があったのです。
より効果的かつ効率的に技術、知識を学ぶ必要性に迫られていたと思います。

安部
その当時、他のお会社さんでも同様の悩みを持っている会社はあったでしょうね。
団塊世代の退職と、調達の教材がなかったと。

インターネットでCPPを見つけていただいて、うれしく思います 笑。

熊代
我々もいい出会いだったと思いますよ 笑。

「この資格試験の活用には一定の価値がある」ということになり、当社の研修に取り入れようということになりました。

資格の有効性の検証方法は?

安部
熊代さんが最初に資格試験を受験されたのですか?

熊代
先に、当時の上司が2009年に受験しました。
その結果「この資格試験の活用には一定の価値がある」ということになり、当社の研修に取り入れようということになりました。
私自身は2010年に資格を取得しました。

安部
上司の方が率先して検証されたということですか?

熊代
そうです。

安部
その上司の方はバイヤー・調達歴が長い、専門的な方なのでしょうか?

熊代
その上司はずっと調達畑です。私もそうです。

安部
そういうキャリアを持った方にしっかりと検証していただいて、有効だと認めていたということですね。

熊代
はい。

安部
熊代さんは、CPPの内容は有効だと思いましたか?

熊代
CPPは、自動車や電機などの、いわゆる量産系の考え方がベースになっていると考えています。
私は、今のモータサイクル&エンジンカンパニーに、約9年在籍していましたので、CPPのスタディーガイドに目を通した時に、自分の担当してきた業務に照らして「CPPの内容は活用できる」と感じました。

安部
上司の方と熊代さんが中心になって推進していただく形になったのですね。

熊代
そうですね。実務的にはメンバー3名で推進しました。

地道なやり方ですが、各カンパニーの調達部門を、上司と一緒に訪問しました。

全社浸透の方法論とは?

安部
CPP資格制度を浸透させるのには色々とご苦労があったと思うのですが、社内での反応はいかがでしたか?

熊代
先ほども申し上げましたが、CPPは、自動車や電機など量産系よりの内容と見受けられたため、当社のような個別生産系の事業の実態に即しているかどうかといった疑問の声が少なからず上がりましたね。

安部
自分の購買スタイルを築き上げてきた方には、ご自身なりの考え方があると思います。
そういった方々をどうやって巻き込んでいかれたのでしょうか?

熊代
まずCPP資格制度というものを、知ってもらおうと思いました。
地道なやり方ですが、各カンパニーの調達部門を、先ほどの上司と一緒に訪問しました。

安部
それをお話された相手は、調達の管理者層の方ですか?

熊代
そうです。

各カンパニーの調達部門で部員の教育などの管理業務を担当している課長クラスの方に説明をしました。

安部
その部門長の方々にしても個別生産をしていたら、自部門にはそぐわないという話もでると思いますが、その時はどうされたのですが?

熊代
とにかく、ひたすら話をしました。最後には納得していただいたと前向きにとらえています 笑。

安部
個別生産系の方々が、受験をいただいた後の反応はいかがですか?

熊代
前向きな意見としては、「今まで実務でやってきたことを、あらためて教科書で体系的に勉強することで、頭の中が整理できた」ですとか、「新たな気付きがあった」といった声がありました。

私自身も同じ感想です。

OJTとか実務経験だけでは、どうしても学べない知識は、やはりあると思います。

もちろん、シビアな意見もありました。

「実践で活かすためには、何かもう一工夫必要ではないか?」「理屈と実際の実務とは違う」「量産系で使える手法が個別生産系で使えるとは限らない」という意見もありました。

その点は真摯に受け止めて、研修の内容に反映させようと考えています。

レジメ化、編集などの作業で1年ぐらいは、かかりましたよ。

オリジナルテキストを作ったのはなぜか?

安部
御社用にテキストを作られたとのことですが、その経緯について教えてください?

熊代
2009年にCPPを研修として導入しようとしたわけですが、当初は、本社OJTの一環として、本社やカンパニーの調達部門に配属された入社2年目の若手社員を対象に集合形式での研修を企画していました。

ですが、その企画内容を各カンパニーの調達部門に説明した際に、入社3年目以降の人が勉強できないのは不公平ではないかという意見があったので、2年目研修とは別の枠組みで3年目以降の人には通信教育による自主学習形式といったメニューを用意しました。

導入初年度の2009年は、自分自身も勉強しながら、各章ごとにレジメとしてまとめて、受講者に配付していました。
スタディーガイドを全部読むのは大変なので、要点をレジメ化したのです。

そのレジュメを編集し、翌年にテキストとして利用しはじめました。テキスト化するにあたっては、日本能率協会さんの許可ももちろんもらいました。

あと、テキストのほかに、理解度テストと称した問題集も作りました。

安部
テキストにしても問題集にしても、相当な労力と情熱と期間が必要だと思います。
それは調達企画の皆さんで作られたのですか?

熊代
はい。レジメ化、編集などの作業で1年ぐらいは、かかりましたよ。

安部
それは大変でしたね?

熊代
大変でしたが充実感はありましたよ。

ベテランの持っている技能、すなわち暗黙知を形式知化して、後任を育成する、ということが技能伝承するうえで必要だと思っています。

属人的な風土を改革する方法とは?

安部
従来は属人的な職人技といった面が大きかったのでしょうか?

熊代
そうですね。
属人的な傾向が強かったと思います。
たとえば、極端な話をすると、隣の席に座っている人が「何をやっているのかわからない」とか。

実際に、ベテランの人は知識も経験もあって、自分では実践できるのです。

でも、それを、人に教えようとするときに何か形式知化していないと難しい面があります。

ベテランの持っている技能、すなわち暗黙知を形式知化して、後任を育成する、ということが技能伝承するうえで必要だと思っています。

安部
雰囲気を変えていくには、労力も時間もかかると思います。
CPPを活用していただいて、社内の雰囲気、風土は変わりましたか?

熊代
CPP資格を持っている人は、20代、30代を中心とした比較的若い人が多いのですが、格好良く言うのであれば、スキルの底上げを図っていこうという雰囲気は出てきたと思います。

科学的アプローチの共通言語とは?

安部
他の会社さんでも共通言語と共通意識があると、コミュニケーションが活性化し、仕事もスムーズに進むとお聞きしています。

熊代
CPPを切掛けとして、調達業務に関する会話の幅が広がったなと思いますよ。

安部
実務的なスキル向上、知識向上にCPPが役立っているのでしょうか?

熊代
知識向上はもちろんですが、実務的なスキル向上のきっかけになっていると考えています。

開発購買、コスト分析といった科学的アプローチが必要な場面では、CPPは役にたっていると思います。

安部
ありがとうございます。

最後に、これから御社内で引き続き受験する方々や、他社でCPPを受験する方々にメッセージをいただければと思います。

熊代
CPPは、調達業務における知識とか技術とかを体系的に学ぶことで、効果的かつ効率的に実務経験を積むことができると思いますので、有効活用していただきたいと思います。

安部
ありがとうございました。

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