アステラス製薬 インタビュー
アステラス製薬株式会社 調達部 マニュファクチュアリング&サプライチェーン 課長 原薬担当・ロジスティクス担当 中島 英之様(CPP-A級取得)に資格取得の背景やご活用についてお伺いしました。
(※以降敬称略、所属・役職は2021年12月20日時点)
吉田
それではよろしくお願いします。まず、現在のお立場と組織内での役割について教えてください。
中島
はい。マニファクチュアリング&サプライチェーンという組織に所属しています。
この部門は生産系と物流系の直接材…、具体的には原材料や原薬、包装材、添加剤などの最終製品に関わる商材の調達部門になり、商材ごとでカテゴリーが分かれています。
私は、特に原薬関連…、医薬品業界で言うところの”低分子合成して医薬品を作る工程”の原薬周辺を調達するカテゴリーに所属しています。
ただ、私の場合は原薬だけではなく出発原料や中間材も含めた商材の調達と、物流関連全般も担当しています。
吉田
ありがとうございます。部門では化学系素材と包装材料の調達およびサプライチェーンマネジメントをしていて、中島さんは、その中でも化学系素材の分野をご担当されている、ということでしょうか。
中島
そうですね。
吉田
ありがとうございます。先程、物流関連全般と伺いましたが、調達資材を工場に運搬するまでのロジスティクス周りを主管されている、ということでしょうか?
中島
そうですね。
吉田
そこには貿易も含まれていますでしょうか?
中島
実際に輸出入も含んでいますが、一つ一つアレンジをするようなことではなく、3PLの役割を担っていただくフォワーダー様の選定などを行っています。
吉田
ありがとうございます。サプライヤー様の選定や管理、加えてロジ周りも担当されていることを伺いましたが、現在の役割についてもう少し詳しく教えてください。
中島
立ち位置は、一応”日本の調達部”ということなのですが、機能的にはグローバル調達の組織になっています。
先程の、マニファクチュアリング&サプライチェーンは日本だけではなく、欧米にもメンバーがいて、全体ですと大体20名程度の組織になります。その中でも原薬カテゴリーは7名程度になります。
勝田
グローバル調達という組織の中で日本がハブ機能をもったマザーという役割になるのでしょうか?
中島
日本がマザーであるという取り決めがある訳ではないので、日本が必ずしもハブ機能を持っているということは無いですね。
各分野のカテゴリーをリードする人が日本人だと日本が中心に見えたりはすることもあるかもしれないですけど、今ある6つのタワー(部署)には、実際に日本人ではなく欧米の方がカテゴリーを牽引していることもあります。
勝田
ありがとうございます。コロナで権限譲渡や組織の体系のあり方が変わってきているので質問させていただきました。
吉田
先程、タワー(部署)が6つあり、その上に全体を取り纏めている方がいらっしゃるということを伺いました。
その6つのタワー(部署)は、中島さんの直接材を取り扱われる部署だけではなく、間接材など機能ごとでタワーがあるということでしょうか?
中島
そうですね。私のいるタワー(部署)は直接材だけで、例えば間接材を取り扱うタワーやシステム・ITなどの無形物を調達するタワーがあります。各タワーで取り扱う商材が異なります。
吉田
ありがとうございます。先程、「機能としてはグローバル調達」と伺いましたが、部下の方には外国に在住している外国の方もいらっしゃるのでしょうか?
中島
私から見て部下には該当しませんが、同僚という関係です。居場所が海外ですが、机を横に並べているという感覚ですね。
吉田
ありがとうございます。国内外の人財が活躍されている組織の中で、CPPの社内認知度はいかがでしょうか?
中島
そうですね…、認知度が高まってきたきっかけにもなりますが、2013,14年頃から調達部で「組織的にCPPを資格取得していこう」という方針があり、年に2~3名程度の割合で、上長からの推薦と本人の意思で、資格取得が推進されていました。それで、資格取得者も増えていき、次第に認知度が高まっていった、ということが最初の流れになりますね。
吉田
なるほど。その制度を立ち上げた方、広げていった方は中島さん以外の方だったのでしょうか?
中島
そうですね。当時はこれからグローバル化していこう、というタイミングで、その時の部課長クラスがCPPの導入を決めて、展開したという流れですね。
吉田
CPPを展開していく上で組織の中にあった課題感や目標などの背景について、もしご存知でしたら教えてください。
中島
あくまで私の認識になりますが、私は30歳半ばで異動してきました。
当時は新卒や経験年数の浅い方が調達部に異動してくることはなく、平均年齢は今よりも若干高めな印象で、業務のノウハウやテクニックは非言語的…、それこそOJTなどで伝承してきたと思います。
それが、徐々に若い人財も増えてきて、当時の組織長達が
「日々の調達業務で発生している事象やアクションが製薬業界特有のものなのか、一般的な購買調達の知識や手法、考え方に基づいているものなのかどうかを知っておいた方が、組織として必要な人財に成長していくだろう」
と考え、「体系的に学ぶ教材や機会が必要」と判断したのかなと思います。
吉田
ありがとうございます。先程「当時は平均年齢が若干高かった」ということを伺いましたが、今は下がってきているのでしょうか。
中島
実際に平均年齢を計算したことは無いのですが、今は新卒の方もいますので恐らく下がってきているのではないかと思います。
あとは、当時よりグローバル化も進んでいて、色々な業務バックグラウンドを持たれた方の中途採用も行っているので組織は多様化してきていると思います。
勝田
会社自体が多様化などの変化するタイミングでCPPの導入が進んでいったということでしょうか?
中島
順番としては多様化していく少し前からCPPは使わせていただいていました。
その後にグローバル化の動きが出てきて、今はグローバル機能化しています。
吉田
先程、中途採用のお話がありましたが、その中でCPPの存在感と言いますか、何か役立っていることはありますか?
中島
そうですね…、中途採用の方には調達歴の長い方や違う業界の方など、様々なバックグラウンドを持たれた方がいらっしゃいます。
そういう点では、製薬業界に新鮮な購買調達のやり方や、他の業界の情報などが入ってきていますが、やはり汎用的な視点、共通の視点を持ってもらうという点ではCPPは大切なリソースかなと思います。
吉田
中島さんがCPPを取り組むときの心理的な障壁、例えば負担に感じたことなどありましたら教えてください。
中島
強いて言えば、日常は業務で忙殺されてしまうので、それとは別に勉強の時間をとらないといけないというか、とる覚悟したことですかね(笑)。
いかに学習する時間を確保していくか、ということが当時の心理的負担であり決意が必要でしたね(笑)。
吉田
CPPの学習は、業務時間の中でやられていたのでしょうか?それとも業務外という扱いでやられていたのでしょうか?
中島
両方ですかね。試験対策セミナーは業務として参加しましたし、それ以外の学習は個々人が業務外で行っていました。
吉田
あとは、受験費用やガイドの購入費などは会社負担ですか?それとも、個人負担でしょうか?
中島
受験費用もガイドの購入も会社負担です。
吉田
お忙しい業務の中、学習時間を作るなど負担を感じる中で、CPPで学習した内容が業務とリンクしたようなエピソードがあれば教えてください。
中島
CPPガイドを学習する前までは、調達の業務は受け身のようなことが多いのかなと感じていました。
ただ、当時の部長が「これからは受け身ではなく、ビジネス部門に提案していこう」「プロアクティブに行っていこう」ということを調達部全体に向けて発信していて、本当に共感しました。
後々CPPガイドを学習していくと、部長が発信していた内容がCPPガイドの「これからの調達のあり方」について書かれているところにも同じように書かれていて「部長もCPPを勉強されたのかな?」と思うくらい驚きましたね。
その時、調達部の方向性とCPPガイドの内容の整合性に気づいた…というか、実務的な部分だけではなく、マネジメントのところで普遍的に通じる考え方があるんだな、ということを実感しましたね。
吉田
現在、大体何名くらいの方が取得されていらっしゃるのですか?
中島
個人で受験している方や、合格した後に異動する方もいますので一概には言えませんが、年間3名程度受験をしていて、今は大体10名程度の方が取得していますね。
吉田
資格取得をした後、CPPガイドを読み返したり、実際に業務で役に立ったりしたエピソードがありましたら教えてください。
中島
あまり大それたエピソードではありませんが、過去に調達業務でオランダ駐在していたことがありまして、そこで現地の会社と製品の契約交渉を英語で行っていました。
その際、LME(London Metal Exchange)という略語がさらっと出てきて、CPPで事前に知っていたお陰で、相手が何を言っているのか分かり大変助かりました。
体系的な知識があると、関連する内容に早く気づけるのかもしれませんね。
勝田
CPPの内容が”共通言語として社外で活用できた”お話を伺いましたが、社内ではいかがでしたでしょうか?
中島
そうですね。開発購買の関連では活かせたのかな、と感じています。
具体的には、医薬品の開発フェーズにおける原料調達なども担当しているので、開発部門視点のマインドセットやスピード感などを意識・理解しながら進めることができるようになりました。
一方で、調達部門の視点でも事前にどのような提案をして、開発段階ごとにおけるサプライヤー評価、管理、方向性などの考え方など、現場の実態と非常にマッチしており、役に立ちました。
勝田
CPPの知識が、他部門とのコミュニケーションや連携する場面で役にたったのですね。
中島
そうですね。
吉田
先程のオランダ駐在に関する話に関連して、日本と欧米では調達に関する考え方も異なってくると思うのですが、例えば最近のSDGs、ESG等での調達部門の役割や、考え方、他部門からの見られ方に違いがございましたら教えてください。
中島
実際に今も感じていることですが、欧米は価格とかコストを含めた”契約全体のアレンジャー”というか…、”交渉から契約までの全てを取り纏めていく人”として見られています。
先程、SDGsやESGといった話もありましたが、例えばEHS(Environment:環境、Health:健康・衛生、Safety:安全)なども評価しながら、サプライヤー選定と契約までの全てを取り纏めていくような機能と権限を持った人として見られていますね。
一方で、日本では契約の部分に関しては、若干影響力が弱いのかなと感じています。
価格交渉と、それに付随した経済条件くらいにとどまっているというか…、交渉やサプライヤー選定をする際に各部門を取り纏める権限はあるのですが、例えば瑕疵に関することやQCDなど契約条件を広く、全体を見る役割としては見られていないのかなと感じています。
吉田
海外と日本の調達業務における業務範囲の違い、見られ方の違いについて、御社では海外にも外国籍の調達要員がいらっしゃいますが、その方たちと一緒に仕事を進めていく上で心掛けていることなどありましたら教えてください。
中島
会社全体でも掲げていることですが「オープンな対話をする」ことでしょうかね。心理的な安全性…、要は「率直に言い合える関係性」を会社全体で重要視しています。
例えば会議を英語で行う場面で、欧米の方たちが意見を色々言っている中、
「こんなこと聞いてもいいのかな、自分だけわかっていないのかな」と思っても迷わず聞いたり、できるだけ最初は自分が質問したり、発言したりしています。
吉田
心理的安全性を確保して、オープンな対話を推進している環境で、御社ではどのような購買調達の人財を育成していこうとお考えでしょうか?
中島
組織の役割…というか命題ですが、関連部署あるいは会社全体に対してバリューを届けていく、繋いでいくような人財を育成していき、調達部門としての使命を果たすことが大切だと考えています。
我々の場合だとバリューを届ける関連部署は生産系の製薬技術本部などになりますが、コスト的な意味合いのバリューも、コスト以外のバリューも関連部署や会社全体に届けていく、繋いでいくということが今の調達が求められる機能、役割かと思います。
対外的に取引先様ともWIN-WINな関係になることもそうですし、社内に「調達が出したバリューはこの部分です」と言えて、伝わるようにしていかないといけない、と思っています。
勝田
今のバリューに関する方針は、調達部門以外でも全社的に示されているものでしょうか?
中島
バリューは全社的なものですね。
弊社ではバリューを計算式のように定義していて、分子がOutcome(結果、アウトプット)、分母が広い意味でCost(会社や関係者が払っているコスト)のイコールを”Value”と価値定義しています。それは全社共通の言語として浸透していっていると思います。
勝田
CPPガイドで書かれているVE(Value Engineering)のような印象ですね。
中島
確かに、そうですね。似ている所はあると思いますね。
勝田
CPPガイドが調達部門として経営の向かうべき方向性を理解しながら、言い換えると経営とリンクしながら進められることに役立つのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
中島
おっしゃる通りかもしれません。会社の方針に、CPPガイドで似ている内容があるのは、もしかしたら偶然じゃないかもしれないですね。
吉田
購買調達は経営に必要な要素がほとんど含まれている、と以前に他の方から伺ったことを思い出しました。
例えば、昨今の経営課題として挙げられているカーボンニュートラルといった環境配慮への取組みに関して、調達部門でやられていることはありますか?
中島
環境配慮のことで言うと、環境にやさしい素材を使用した医薬品パッケージにしよう、といったことがありますね。
吉田
その際の調達部門のプレゼンス(存在感)や、会社から期待されていること、他の部門の関わり方等について教えてください。
中島
構想などの起点は研究所から出発することが多いかもしれませんが、そのサイエンスのアイデアを実際のビジネスや形に落とし込むには調達の存在が必要だと思います。
具体的には、実際に社外の技術力をお借りしたり、取引条件を交渉したり、お取引をしたりするなど、具体化するためには調達部門が機能することで初めてビジネスや製品に落とし込むことができるのかなといます。
吉田
「調達部門がサイエンスのアイデアをビジネスの形にする」…、これは凄いパワーワードで、キーワードですね。
きっと、このインタビューをご覧になられる方は、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン、ステークホルダーを繋いで商品やサービスなどのビジネスの形にするためには調達部門が必要不可欠であるという、新しい視点や気づきを得られるのではないかと、勝手ながら感じました。
まさに、先ほどのバリューということにも通じていることかと思いました。
勝田
環境対応は、調達だけではなくて全部署に関わることですよね。
その中で、調達部門が色々の部署を繋いでいって、求められる役割や機能も増えていくのかなと感じましたね。
吉田
お時間も大分いただいていますので、クロージングに移らせていただければ思います。
CPPガイドは電気電子業界や組み立て産業に関する内容に触れていることが結構ありますし、恐らく中島さんも感じられる部分があったかと思います。
最近はあまり聞きませんが、以前は「うちの業界にはCPPは適用できない、関係が無い」といったご意見をいただいたりもしました。
御社は医薬品業界ですが、中島さんはCPPガイドの内容をどのようにして理解していったのか、役立つものにしていったのかを教えてください。
中島
おっしゃる通り、組み立て産業が前提で書かれているのかなという部分もありましたが、自分自身の業務に置き換えましたね。
例えば「部品」という単語を、私の業務の「原料」に置き換えて取り組むと、自分自身の業務に通じる内容になったりしました。業界が違えども、汎用性を持たせてある内容だと思いますので、必ず自分の業務に落とし込めるところがあると思います。
吉田
最後に、どのような方がCPPを取り組まれた方が良いか、中島さんのお考えを教えてください。
中島
そうですね…、調達部門に異動してきた方や入社して配属された方にとって「何が社内の流儀で、何が業界の流儀で、そして何が購買調達の世界で汎用的なのか?」といった、そのあたりの線引きや区別を体系的に学べることができます。
業務を経験している人も、より理解が深まると思います。
言い換えると「仕事を進める上での視野や知識がとても広がるツール」として非常に役立つものだと思いますので、そこを学習と受験のモチベーションにしていただければと思います。
吉田
本日はありがとうございました。
中島
こちらこそ、ありがとうございました。