アサヒグループホールディングスインタビュー

アサヒグループホールディングス株式会社
﨑田 薫さん(執行役員 調達部門 ゼネラルマネージャー グローバル調達戦略推進センター長)にお話を伺いました。(以下敬称略、お役職はインタビュー当時)

調達部門GMまでのキャリアと、調達業務との関わりとは

綿貫
まずは、﨑田さんのキャリアから教えてください。

﨑田
私は2014年4月に、アサヒホールディングスの調達部門のゼネラルマネージャーとして異動になりました。異動後、かれこれ5年が経過しているのですが、それまでは調達業務に直接携わったことは一度もありませんでした。

入社後、3年ほど工場の経理に携わり、その後、本社で10年ほど為替や金融商品など資産運用、財務企画、資金調達などをメインに仕事をしてきました。財務部門が結構長かったわけです。

調達との関連でいえば、工場原価計算において、原材料の受け払いに関わったり、財務部門では、市況や為替の動きといったリスク管理に関連して業務に関わったりと、あくまで間接的な関係であり、直接、実務に携わることはありませんでした。

財務部門の後は、経営企画部に8年在籍し、会社全体の中期計画やグループ会社の経営管理、M&Aなどを担当しました。M&Aでいえば、酒類、飲料、食品などいろいろな会社の買収業務に携わりました。

調達部門へ異動になる直前の5年間は、オーストラリアで約5年間、アサヒビールと現地グループ会社との間で調整役を務め、その間、4件のM&Aに関わりましたが、M&A後の調達シナジーの創出を目的としたプロジェクトを立ち上げ、そこで初めて調達業務と直接の関係を持ったことになります。とはいうものの、実務経験のない自分にとって調達部門への異動はちょっとしたサプライズでした。

CPPへ取り組むことになった背景とは

﨑田
実際に異動するまでに2か月くらいの時間があったので、その間に調達について勉強しようと考え、学習資料を探していたときに偶然見つけたのがCPPです。「どうしようかな」と思いながら日本へ帰ってきたら、会社からCPPテキストを渡されました。

綿貫
異動初日に机の上にテキストが置いてあったと仰ってましたよね。

﨑田
そうです、まずは取ってみろよといった感じでしたね(笑)。
聞けばアサヒグループの中で、CPPへの関心が高まっており、勉強会を行い、資格を取ろうという雰囲気作りがすでにできていたのです。

綿貫
結構分厚い、量が多いということに、抵抗感はありませんでしたか。

﨑田
その方がいいと思いましたよ。自分に課題を課すのは年を取ると非常に難しくなってきますから、率先垂範が非常に大事になってきます。

私はグループ会社をリードする立場にある人間が率先して資格を取得することがグループ全体への影響を大きくすると考えています。一方で、自分ができないことを人にさせるのは少し気が引けます。

私は責任ある立場の人間としてマネジメントしなければなりませんが、調達部門の経験がない人間がCPPに挑戦することを、実際に体験したわけです。未経験なわけですから当然、猛勉強しないといけません。

自分の場合は、勉強だけでなく即実践しなければならない立場でしたので、テキストを見ながら、当社のグループ調達のあるべき姿とギャップ分析を行い、3カ月プランで、実践と学習を進めながら、『グループ調達機能の中期ビジョン』の設定、強化課題として『グループのシナジー強化』、『グループリスクマネジメント強化』、『調達人材の育成』を設定しました。

グループ全体規模の人材育成の取組みとは

﨑田
テキストを渡されて、3か月後の7月にB級、半年後にA級を取得し、それでやっと仲間に入ることを認めてもらったという感覚です。

その後にCPP資格を取得したこと自体が強みになったと感じたことから、着任して1年後に調達機能共通の人材育成プログラムに着手して、基礎メニューとしてCPPの活用を推奨しました。現在では、管理職レベルにはA級の取得を求めています。

また、資格取得へ向けて私どもが勉強会を主催しグループ各社に参加してもらったこともありましたが、現在では代表者に日本能率協会のセミナーへ参加してもらいます。そして聞いてきた内容を仲間に講習してもらうのです。

これは本人にとって大きなプレッシャーになりますが、こちらとしては講師を務められるぐらいにきちんとした知識を習得してほしいし、そのほうが習得できると考えています。

そして仕組みを作ったら、それで終わりではなく、きちんと啓蒙していくことが重要です。年に3回、国内のグループ会社が集まって調達の大きな会議を開いていますが、その席で必ず各社の資格取得情報を公表しています。

資格を取れているグループ会社を褒めるだけでなく、そうでない会社にも気づきの場としてもらう狙いがあります。学習する・そして資格を取得するという雰囲気作りができたのではないかと思っているところです。

CPP資格取得へ向けグループ全体のモチベーションを上げる方法とは

綿貫
グループ会社が集まる調達会議の場ではCPP資格についてどのように公表しているのでしょうか。

﨑田
基本は今までの取得率を大きく伸ばした会社の状況をチャートにして見せます。人の入れ替えなどがありますが、大体6割から7割の人が資格を取得する状況になっています。

ただ、座学や資格の取得は仕事をやるうえでの前提条件のようなものです。OJTが非常に重要なわけで、その辺をどうしていくのかが課題になってきています。

そこで、今は年に1回、責任者が部下のスキルを評価し、高いスキルを身に着けて成果を上げている社員に対し、次のステージを示してあげられるような、場づくりを心掛けています。

CPPと直接の関係はありませんが、スキル表のようなものを作成し、スキルを評価しなければならないのです。

綿貫
テキストのスキルスタンダードを活用されましたか。

﨑田
ええ、参考にさせてもらいました。切り口や共通言語化は既にできているので、CPPをひと通りやったあとでスキル評価と絡めれば非常に分かりやすくなり、グループ各社のリーダーが理解した上で、各社での運用がしやすい状況を生んでいると思います。

CPPを導入してよかったこと、役に立ったこと

綿貫
CPPを導入してよかったこと、役に立っていることと感じできることをお聞かせください。

﨑田
私は、業務で行き詰って相談を持ち掛けられたときには、CPPテキストの振り返りを勧めています。特に、マネジメント業務は理路整然と物事を進めることが求められます。
そうでなければ、会社を引っ張っていくことができません。だから、拠り所として活用しています。

調達は、属人的かつブラックボックス化しがちなセクションと思われがちです。
これからの調達機能は、関連部門と連携しながらアクティブに活動すべきであるし、購買活動は、透明、公正で、不正行為を許さないという情報発信をする立場です。
そういう意味で、CPPで学んだ知識が調達マンの『共通言語』として、定着すべきで、困ったときや悩んだ時に戻るべき、バイブルでもあるといえます。

グローバル環境における調達部門の人材育成とは

綿貫
CPPテキストを、困ったときのバイブル、拠り所として、活用いただき、私どもとしてはうれしい限りです。グループ全体としては、今後どういう方向に調達部門の人材を育成しようとお考えになっていますか。

﨑田
弊社の場合はこれまで、国内中心で事業展開してきましたが、今は海外事業が全体の4割を占めています。したがって、海外との共通言語、同じフレームワークやテンプレートを使ってものを語ることが重要になってきます。

また、海外は文書化や可視化が非常に進んでいますので、それらをいかにうまく組み入れ、異なる競争環境に適合させるかも忘れてはいけません。

グローバルで共通な部分とローカルで一生懸命に汗をかくことを組み合わせ、グローカルでやっていくことが、全体の底上げにつながるのではないかと考えています。

綿貫
枠組みや仕組みを作られた結果、現状があるわけでしょうか。

﨑田
そうですね。日本の場合は1つの会社で終身雇用に近い形で働き、いろいろな部署を経験していきます。キャリアプランはその中で考えていくことになります。

これに対し、海外の会社はもっとドラスティックで、プロフェッショナルとして色々な会社を渡り歩きながら、キャリアを積んでいく形です。

それぞれにいいところと悪いところがあるでしょうが、企業としてはずっと継続して業績を上げていかなければなりませんから、コアになる人材を育てていくことが肝心でしょう。これは非常に難しいことでもあると考えています。

綿貫
これからさらにグローバルで活躍することが求められますね。
今後さらに、海外の比重が大きくなる可能性もありますでしょうか。

﨑田
うちのメンバーも月次でいろいろな電話会議を通訳なしの英語でこなしています。結構ハードなことは確かで、すぐにはできませんが、2年、3年と経てばそれなりにできるようになります。40代後半からの英語ですから、少し老体に鞭打つ格好になっています。本音としては若手の時代から育てたいので、その辺が今後の課題になりそうです。各事業に調達部門がありますが、年代やキャリアに関係なく、コア人材の育成は重要と考えています。

綿貫
今は様々な部門の経験者が集まっているのですね。

﨑田
そうです。もう少しベテランと若手のオープンな機会を設け、より共通の言語を増やしていきたいと考えています。

CPP-B級からCPP-A級取得者を目指す方へ

綿貫
最後にCPPのB級からA級へ進む皆さんに向け、何かメッセージをお願いいたします。

﨑田
はっきりいって、B級のような幅広い知識の習得とは異なり、A級は判断を伴うマネジメントに関するものが中心のため、業界が異なる中で設定された質問には戸惑いました。調達というのは本当に事業形態に応じて、調達を決定するポイントやレベル感が異なるということがよくわかりましたし違う業界での課題解決に向けた想像力もついたと感じています。

級を目指す上では、自分で判断する回数を重ねることも欠かせません。それができるようになれば、業務でのマネジメント能力の向上に結び付きます。レベルアップのためにそういう訓練を積み重ねていってほしいですね。

まずは、きちんと地力をつけることが大切です。そのために、なるべく業務の中で振り返りを進めてほしいと思います。それによって個々の差が生まれてきます。知識は、経験とともに生きるので、困ったときはもう1度CPPテキストを振り返り身につけてほしいのです。

綿貫
本日はどうもありがとうございました。

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