アサヒビール インタビュー

むしろ経験の浅い人達が資格を取得し始めたことで、勉強することが大事だという雰囲気に変わりはじめました。
人材育成体系の目的は、調達の基礎知識の習得もあるのですが、重要だと思うのが、考え方と調達用語を共通化することです。

CPPホルダーのアサヒビール 門倉泰昭さん(研究生産本部 調達部 部長)、黒川哲平さん(研究生産本部 調達部 原料グループ 副課長)を訪問しました。
日本能率協会の安部武一郎がインタビューします。(以下敬称略)

人材育成のグランドデザインとは?

アサヒビール 門倉泰昭さん(研究生産本部 調達部 部長)

門倉泰昭さん(研究生産本部 調達部 部長)

(安部)
アサヒビールの研究生産本部の調達部のお役割、お仕事について教えてください。

(門倉)
アサヒビール株式会社の調達部門のミッションは、直接材、原材料の購入です。
ビール、RTD(Ready To Drink)、缶チューハイ関係の原料とビール、RTD、洋酒、焼酎の資材関係の調達をやっている部署です。
業務内容は調達ですので、品質管理、安定供給、それからコスト最適化の役割を担っています。

(安部)
サプライヤーさんは、国内、海外の両方ですか?

(門倉)
両方ともあります。

(安部)
CPP資格制度を導入された経緯をお聞かせください。

門倉さんはA級資格保持者ですが、受験されて、有効性を認めていただき、導入することになったのですか?

(門倉)
私だけでなく、私の前任の部長の時から、調達の基礎知識の習得の為にこの資格は有効だという認識がありました。

経緯としては、2008年に日本能率協会からCPP資格制度の案内がありました。
当時の調達部長山辺が導入検討をはじめまして、2011年に部門として正式に取り組むことになりました。

2011年からメンバーがCPP資格を取り始めて、資格保持者が3人ぐらいになった時に、スタディーガイドの項目毎に勉強会を始めました。

本格的に「勉強して受験をしよう」という体制で臨み始めました。

取り組みとしては、各部門の人材育成体系を作り、資格取得を推奨しました。

人材育成体系というのは、それぞれのクラス、レベルで「こういう勉強しましょう」、「こういうスキルを身に付けましょう」という、いわば人材育成のグランドデザインですね。

その時にCPP・B級資格の取得を前提とし、推奨をすることにしました。管理職になる前に必要なスキルのひとつにCPP・B級資格を、指定することにし、受験を推奨したのです。

(安部)
今は、会社の教育制度上でCPP資格制度を正式に推奨されているのでしょうか?

(門倉)
そうです。

(安部)
昇進にあたって必須だったりするのでしょうか?

(門倉)
調達部門でキャリアを積んでいく目安として、必要スキルの1つにしています。
もちろん、CPPがすべてではなく、他にもいろいろなスキルはありますが、備えるべきスキルの1つとして、CPPを教育体系のグランドデザインの中にいれております。

したがってスキルを身につけるプロセスとして会社がサポートします。事前講習の費用は会社負担にしていますし、スタディーガイドも会社負担で提供しています。
受験料については合格しないと個人負担です。そういう仕組みでやっています。

(安部)
導入にあたって課題はありましたか?

(門倉)
導入当初には課題もありました。

調達部門ですと経験豊富な人もいました。特定の得意分野でものすごく経験のあるベテランの人達です。彼らは、あらためて広範囲な基礎知識を学ぶことに対して、少々抵抗感があったかと思います。

あらためて基礎の全般的な勉強をしたがらない人もおりました。
けれども、ベテランよりも、むしろ経験の浅い人達が資格を取得し始めたことで、勉強することが大事だという雰囲気に変わりはじめました。

人材育成体系の目的は、調達の基礎知識の習得もあるのですが、重要だと思うのが、考え方と調達用語を共通化することです。

CPPの導入によって、考え方を共通化していくことで、それまで各個人持っていたベクトルのばらつきを、集約しやすくなったと感じます。

とかく調達業務は、個々の担当に業務がついていて、各人はそれなりにスキルがあるものです。

これに対して、調達品目ごとの、ばらつきが少なくなること、モデル化、理論化できることは非常に有効だと思います。

経験則が理論的になっていって、考え方の共通性ができてくる。その結果、ベクトルが統合されて、やりやすくなってきたと思います。

それから、人が代わったとき時に、考え方をきちんと引き継げるようになってきました。標準化のベースのひとつとして活用しています。

調達に求められる役割の変化とは?

002

(安部)
CPP資格制度をご活用いただく前にも、いろんな教育をされていたと思いますが、従来の教育を補完する使い方をしていただいたのでしょうか?

(門倉)
そうです。
もう一つ、背景としていえるのは、このスタディーガイドにも書いてありましたけど、調達の業務自体に求められる役割が変化してきていることが挙げられます。

受動的ではなく能動的に社外に対しても社内に対しても働きかけることを求められていると思います。
その際に、きちんとした理論的な考え方を持って戦略を提案していかなければなりません。

その為の考え方の基盤を作っていく、我々の業務を進化させていくステージに、ちょうどCPP資格制度のスタディーガイドの考え方がフィットしていたと思います。

そういうことが、スタディーガイドの中でも訴求されていると思いました。

過去にも、他の団体の資格で個別のテクニカルスキル資格はありましたが、調達業務での基礎知識の資格は、日本ではCPP資格制度がはじめてだったと思います。

そして我々の考え方、やりたいことにフィットしたと感じています。

(安部)
具体的には、どのような変化でしょうか?

(門倉)
まだまだ我々もやっている途中ですけれど、従前は、仕様スペックが決まってから数量を時間に間に合わせるように調達するというやり方でした。

今は、開発段階でマーケティング部門、研究開発部門と一緒に話し合い、より品質の高い物、必要量を最適なコストで調達するために上流工程からはいりこんでいる。

サプライヤーさんにも早い段階でも打合せをしていく。
そういうふうに変わってきています。

従来のやり方では、安定調達、品質、コスト最適化が実現できないところまで環境が変わってきているのです。

そのために、なるべく早い段階で働きかけるように業務プロセスが変化しています。

そのプロセスに対応するためには、我々バイヤーにもさまざまな知識が必要ですし、社内、社外と、きちんと論理的なコミュニケーションをしなければいけない。

その際の考え方の整理としてCPP資格制度のスタディーガイドに書いてあることを使っています。

(安部)
なるほど。

(門倉)
食品会社の調達部門というのは、絶対的に人員が少ないのです。
ローテーションをしているとはいっても調達業務を経験していない方が、社内にもまだまだ少なくないので、どうやってわかりやすく調達の仕事、やりたいことを説明するか、というのも重要なファクターだと思っています。

その時に、「こういう考え方でマネージャーも担当者もやっていますよ」とわかりやすく伝える、考え方の整理にも活用できています。

「学習する組織」になるためには?

001

(安部)
部門長の門倉さんが実際に取得されているというのは、部内で納得感もあると思いますし、推進力にもなると思います。ベテランの方々に勉強してもらうというのは難しいというのは、いろんなお会社でお聞きしています。
今はベテランの方々にもこのCPP資格制度を活用していただいているのですか?

(門倉)
そうです。
今、うちの部で17名中12名取得している状況です。
基本的には、B級は全員取って欲しいと考えており、面談のおりにも「資格取得を目指してください」と言っています。

とはいっても、今更と言われる方もいなくはないのです。

「学ぶ」ことを組織に浸透させるにはステップを踏んでいきました。

メンバー半分以上、3分の2のメンバーが取るまでのステップとしては、毎年候補となる方々を決めて、グループで一緒に勉強してくださいと言っていました。

事前の講習にも参加していただいて、聴講してきた内容を共有化してもらっていました。
その勉強会で刺激を受けあうことで、2~3年ぐらい前から良い方向に回りはじめました。

私も3年ぐらい前に勉強会グループの中の1人に入って、勉強させてもらいました。
受験できる期間が1ヶ月ぐらいあるので、なかには早めに受けて受かってしまう人もいます。

そうなると負けるわけにはいかないので、積極的に勉強をやりだすということもありしました。

ひとりではなく、複数の人でその期の試験に取り組むことで、上手く刺激にもなり、また面白さも増すと思っています。

2011年には、全員で章ごとに分担して勉強会をしました。
それが一旦終わった後は、個々に勉強して、事前講習に行きました。

講習の内容について共有する場を作ったりもしましたね。

(安部)
講習には黒川さんはご参加いただきましたか?

(黒川)
私は参加していません。

(門倉)
別の者が参加しました。
いろいろな個性がありますので、
彼は、独学で勉強するという形でした。

「共通認識」が「戦略実行」におよぼす影響とは?

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(安部)
門倉さんご自身が、CPP資格を取得されて、一番役にたっているのはどんなことですか?

(門倉)
今の環境変化、これからの環境予測を踏まえて、メンバーに対して「今後どういうことをやるべきか」を発信する基礎になっている、共通認識となっていると思います。

CPPを勉強していくと、受けとめる受信者側も感度が高くなると思います。
発信者の発信したいことを、ちゃんと受けとめてもらえます。

発信側、受信側両方の感度を高める為に役に立っています。
そこが高まってくると、その次のステップとして、「どういう課題があって、何をやるか」というディスカッションができるようになります。

スタディーガイドの中に、「調達基盤の強化の6つの要素」があって、それに基づくと、自分達の会社はどういう状況で、どこまでレベルをあげるかという戦略立案の時の目安にもなると思います。

実際に戦略立案の時の目安にさせてもらっています。

あとは、「調達戦略の4つの視点」というのがありましたが、その考え方は、実際に私が作った役員へのプレゼン資料にもその考え方は使わせてもらっています。

(安部)
社内での共通言語ができると、基盤の知識と、共通の理解が浸透し、スムーズにスピード速く、効率的に戦略を実務に落とせるということでしょうか?

(門倉)
そうですね。
やっぱり共通の価値観、共通認識を持つことが大事だと思います。
CPPはその為の基礎作りになると思います。

全体観の把握で得たこととは?

黒川哲平さん(研究生産本部 調達部 原料グループ 副課長)

黒川哲平さん(研究生産本部 調達部 原料グループ 副課長)

(安部)
黒川さんは、受験いただいて1ヶ月強たってみて、役にたっているなという実感はありますか?

(黒川)
私自身が調達部門で仕事をし始めたのが約1年前の9月からです。それまでは、研究部門にいました。

そちらでは実験をしたり、ビールを造ったり、目に見えるものが動く仕事をしていました。
先輩の背中を見れば学べる部分があったのです。

しかし、調達部門に移ってみて感じたのは、デスクワークも多く、サプライヤーさんとの打合せも関係者のみで、なかなか学ぶ機会が少ないということでした。

その中で全体像を把握できなくて、海の中をさまよっているような印象をもっていたのです。

CPPを勉強することで、「メンバーがどんなことを考えているのか」を少しは理解ができるようになったと感じられて、それが一番役に立ったと思います。

もちろん、個々の関連法規とか、知識の部分も役に立っていると実感しています。

(安部)
CPPの範囲の中で、具体的にこの領域を担当しているということはありますか?

(黒川)
私は、今、麦芽と大麦の担当をしているのですが、そのアイテムの中で幅広い知識が必要となってくる仕事をしています。

(安部)
スペンドアナリシスや開発購買といったテクニカルなことも勉強いただいていると思います。
そういうところは、これからお役に立ちそうでしょうか?

(黒川)
確かに自分が業務としてやっていることは、スタディーガイドの理解も進みますね。
逆に実務経験がない領域は、難しかったです。

でも、それが新しい知識になりますので、そういったところは活用していきたいなと思います。

(安部)
全体像の中から「自分が、どの業務をしているか」客観的にみていける。

(黒川)
自分が今やっている仕事が、どの分野の仕事で、取り扱うアイテムについて、どの分野の仕事が足りていないかがわかる。
そういう全体像の把握、バランスの取り方にすごく役にたっています。

(安部)
全体観を知ってやるのと、知らないでやるのでは、業務の効率は違うのでしょうね?

(黒川)
もちろん、今でも見えてないところは沢山あると思います。

でも、少しでも視野を広げたことでだいぶ見えるものが変わったと思います。
もし、知識がなく視野が狭かったら一部分に固執して、力のかけ方とか時間の使い方が上手くできてなかったかもしれない、と感じます。

部門共通の考え方を浸透させるには?

009

(安部)
門倉さんは、CPP・A級資格取得者です。
A級の内容はマネジメント層の高い視点からの受験を想定していますが、B級資格をお持ちの実務担当の方々が、A級を取得するメリットはありますでしょうか?

(門倉)
はい。
実際にB級資格取得者は、その次の年はA級資格を取得しています。

今年7月期の試験で、あらたに2人がB級資格に合格しましたが、それ以外のメンバーはすでに全員がA級資格まで取得しています。

調達企画業務の専任担当はまだいないのですが、かなり企画業務に近いことをやっている者もいます。

開発購買とかサプライヤーのマネジメント的なことを担当している者がいて、そういう人達がそれぞれ担当者に仕事のお願いをしていくわけです。

その時に、全員がCPPをもとに「開発購買はどういう考え方か」というのを、知っていますと、仕事を依頼するときでも話が通じやすいです。

例えば、黒川は自分の担当するカテゴリーで開発購買に近い上流工程への働きかけをやっています。

その働きかけにおいて、会社として、部としての取り組みに対して、自分の位置づけがわかりやすいと思います。

(安部)
CPP資格を取得された方が12名いらして、CPP資格を持っていない人達との
一体感、共通意識についてはどのようにお感じでしょうか?

(門倉)
すでにCPP資格保持者がマジョリティーになっています。
ですからCPPの考え方と、部門の考え方とはかなり近くなっています。
当然、CPP資格を持っていない人、受験していない人にも理解していただいています。
私はマネージャーの立場で、面談の時に粘り強く受験を推奨しています。
一人ずつ納得していってもらおうと思っています。

調達の本質は商品競争力の強化

008

(安部)
これからCPP資格制度を導入や、受験を検討されている方に、メッセージをいただけますでしょうか。

(門倉)
会社の業種業態、おかれている状況によってさまざまだとは思いますが、弊社では、調達部門の環境変化によって、調達機能へのニーズが高まっています。
そうした状況にあわせて調達部門のプレゼンスを上げていきたいという想いがあります。

その為には、自分達の考えを整理し、関係する部門に対して、やりたいことをきちんと伝えるためのツールにしたい。
やりたいことをやるための、武器として使っていきたいと思っています。

そのためにはCPPをきっかけとして多角的な視点をもてるようになってほしいと思います。

CPPもレベルが高いとは思うのですが、他にも私は調達関係の書物、例えば、コンサルタントの著書やビジネス関係の書物もよく読みます。

そういった書物を読んだ時に、CPPのようなベンチマークとなる考え方を持っていると他の理論と比較ができるのだと思います。
共通点と相違点がわかり、多角的視点で見ていくことができる。そうして仕事のレベルがあがるのと思うのです。

当然、部内のメンバーにもいろいろな購買関係、調達関係の書物は読んでもらっています。ベースとなる考え方を持っていると多角的な見方ができるようになりますね。

(安部)
今、社内では、調達の重要性というのは注目されていますよね?

(門倉)
確かにそう思います。

(安部)
やはり利益に直結することが一番の要因でしょうか?

(門倉)
一言でいってしまえば利益ですけれど、本質的には商品自体の競争力の強化になるということだと思います。

我々は製造業ですから商品の競争力が増すことが、一番大事です。
売上の拡大にも繫がりますし、品質の確保にも繫がります。

そして原価の低減によりコスト競争力の強化にも繫がります。
調達改革の影響範囲はコストだけではないと思っているのです。
商品自体の競争力にも繫がると思っています。

客観的に業務を見直すとは?

006

(安部)
これから受験をされる方に一言お願いします。

(黒川)
CPPを学ぶことによって、自社における自分の業務の強み、弱みが見えてくると思います。
そのように客観的に業務を見直せることが、CPP資格制度のひとつの大きな利点だと思います。

そういう部分を、意識して私も活用していきたいですし、活用されると役に立つ方がいらっしゃると感じています。

(安部)
ありがとうございました。

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