アネスト岩田 インタビュー
アネスト岩田株式会社様に、「CPP資格取得」の背景やご活用についてお伺いしました。
経営管理本部 ロジスティクス部
部長 澤野 健樹 様
調達ロジスティクス グループマネージャー 鈴木 善之 様
(※以降敬称略、所属・役職は2023年11月17日時点)
写真左から、澤野様、鈴木様
吉田
はじめに御社の概要から教えてください。
澤野
弊社は大正15年に創業し、2026年に100周年を迎えます。大きくは2つの事業があり、一つは空気圧縮機などの空圧機器を扱うエアーエナジー事業、もう一つは塗装機器や塗装設備を扱うコーティング事業です。これまで培ってきた技術や販売網を通じ、ハンドスプレーガンについては国内シェア約70%、圧縮機も約25%のシェアをいただき、安定した基盤の上に事業が成り立っている点が我々の強みだと考えています。
吉田
国内外の売上・シェアはどのような比率になっているのでしょうか。
澤野
連結の売上で見ると、海外が約65%、国内が約35%です。ハンドスプレーガンのグローバルシェア当社調べですが約30%です。
吉田
主にどのような業界で御社の製品は使用されているのでしょうか。
澤野
コンプレッサーは、製造業・工場全般でご利用いただいています。中でも、弊社は小型のコンプレッサーを得意としており、中小企業で多くご利用いただいてる点が弊社の特徴だと思います。
吉田
現在のお立場や業務内容を教えてください。
澤野
私はロジスティクス部の部長として大きく二つの領域を管轄しています。一つは調達業務です。アネスト岩田全社の調達業務に携わっています。もう一つは物流業務、出荷の領域です。我々はサードパーティーロジスティクスでお客様へ出荷しています。外部物流事業者にご協力いただきながらお客様へ正確に製品をお届けすべく尽力しています。調達と出荷物流、すなわちモノの入口と出口を担う立場です。
吉田
直接材のみならず間接材も扱っているのですか?
澤野
はい、間接材も扱っています。
吉田
全社というと国内外含め全てですか?
澤野
大きな枠組みではグローバルもみていますが、海外における実際の調達購買業務は現地の各工場が行っています。
吉田
調達人材の育成も貴部のご担当ですか?
澤野
そうですね。調達に係る人材の育成は当部で担っています。
吉田
調達に従事する方は今何人ほどおられるのですか?
澤野
調達は20名弱ですね。物流部門が10名です。
吉田
鈴木さんも、現在のお役割や業務内容を教えていただけますか。
鈴木
私の管轄である調達ロジスティクスグループはサプライチェーン全体を管理しており、その中でも私は調達と調達物流を担っています。
吉田
調達の中で戦略と実務など業務分担はありますか?
澤野
私が全体を統括しておりますが、鈴木は元々グローバルのマーケティングや物流も担当していたため、調達全般も担当してもらっています。各事業所の購買活動は全て鈴木が一括して担当しています。
一つだけ機能として分けているのは開発購買の領域です。新規サプライヤーや新商材の開拓は部内の別チームに担当させています。
吉田
鈴木さんのバックグラウンドは調達ですか?
鈴木
いえ、私はマーケティング、販売畑の出身です。
吉田
一般的に調達業務は長く従事する方が多い印象がありますが、御社では定期的なジョブローテーションが行われているのですか?
澤野
調達に関して言えば、新卒で調達に配属されそのまま調達業務に従事している人間が多く、今のメンバーはわりと調達畑の長い人が多いですね。
吉田
では、鈴木さんがジョブローテーションで調達に来られたのはレアケースですか?
澤野
実は、ロジスティクス部の創設は3年前とまだ新しく、鈴木は創部と同時に異動してきてもらいました。
売り上げの65%を海外が占めるため、調達のみならずモノをグローバルに供給する必要があります。鈴木はグローバルの販売や物流にも従事していたため、部門創設の趣旨に合致した人材でした。そのあたりの改革を今2人で推進しています。
吉田
マーケティング領域から調達へ人材を投入される戦略はかなり先駆的な印象を受けますが、そのような背景があったのですね。
澤野
調達はサプライヤーの協力が不可欠ですので、対外的な役割も担います。従来小規模で行っていたサプライヤーズ・パートナーズミーティングを大掛かりな会議に変える改革も鈴木が中心になって仕掛けてくれました。販売など他部門を経験した人間でなければ出てこない発想から様々な活動に繋げてくれています。
吉田
サプライヤーさんとのリレーションシップを大切にしているのですね。
澤野
元々は一カ所開催だったミーティングを、今は地域ごとに複数開催しています。我々の方針をきちんとご説明した上で、その後も定期的にサプライヤーを訪問しフォローするなどコミュニケーションを取っています。
谷澤
サプライヤーさんの生の声を聴くよう努めておられるのですね。
澤野
我々のサプライヤーは中小企業が中心です。営業力も弱く要望などを言い出しづらい面もあるかと思います。そのあたりは弊社のほうから真意を引き出しにいき、今どのような状況にあるのかを確認していかなければなりません。こうした課題を認識できたのもサプライヤーとの密なコミュニケーションが図れたからこそです。今後はこの状況をいかに乗り越えていくかが問われていると強く感じています。
谷澤
サプライチェーンのあり方自体も問われますね。
澤野
国内回帰、海外での自社購買など様々な施策を考えながら方針を定めていかなければなりません。協力関係を築く上で当方のバックアップが必要なケースもあるでしょう。イコールパートナーとしてサプライチェーンを守り抜く強い覚悟が必要です。
経営管理本部 ロジスティクス部
部長 澤野 健樹 様
調達ロジスティクス グループマネージャー 鈴木 善之 様
(※以降敬称略、所属・役職は2023年11月17日時点)
吉田
2020年以降、調達物流領域は新型コロナウイルスの影響を大きく受けたかと思いますが、2020年4月にロジスティクス部が創部されたのはそのあたりも背景にあったのでしょうか。
澤野
元々ロジスティクス部の使命は物流の2024年問題への対応がベースにありました。しかしサプライチェーンを管理するためにはモノの入口である調達も適切にマネジメントしなければサプライチェーン全体は回りません。そのような背景から新部門としてスタートしました。
吉田
そこにコロナの影響による調達や物流の混乱が顕在化してきたのですね。
澤野
ご承知のとおり、半導体の入手が困難なことや海外工場が操業停止になったことなど、まず調達側がかなり苦戦し始めました。従前、弊社では本社に調達機能がなく、秋田と福島の工場にそれぞれ調達部隊を置いていました。しかし昔は横浜に工場があったため、サプライヤーの多くはまだ横浜近辺にあり、大手メーカーの営業部隊も首都圏がメインです。外部とのコミュニケーションを強化すべく本社に調達部門の本部機能を戻したことが幸いし、大きな打撃を受けることなくコロナ禍もなんとか切り抜けられました。
吉田
なんというタイミングだったのでしょう。
澤野
迅速な対応が求められた中、意思決定もかなり早くできる体制になっていたため、そこにロジスティクス部の存在価値があったと思います。従来から調達に従事してきたメンバーが一堂に介し知恵を出し合いながら対応できたのも大きな利点でしたね。
吉田
昨今では調達には環境配慮も求められますが、そのあたりはいかがですか。
鈴木
管理レベルを上げる必要性を感じているのは化学物質管理です。お客様より対応を求められるケースも多いため、当該領域に配慮しているサプライヤーと取引きを行っていくという方針転換がなされたのは大きいと感じています。
澤野
国内では労働人口の減少による後継者問題や製造業への従事希望者減等の課題が顕在化しています。当社製品に使用する多くの部材供給元は中小企業です。中小企業からの調達が難しくなると、当社の調達方針・戦略も根本から見直さざるを得ません。
吉田
日本のものづくりにおける大きな問題の一つですね。
澤野
昨年、鈴木を中心にサプライヤーの評価方法も変更しました。今年、評価結果の分析を行い、様々な対策を打ちはじめたところです。国内調達の存続如何が今後も一番のネックとなるでしょう。国内調達が困難になればグローバルでの調達が不可欠です。グローバル調達を考えるためには地政学リスクを含めた物流も考慮しなければなりません。どこか一ヵ国で調達の全てをまかなえる時代ではないですからね。
吉田
澤野さんはCPP-A級も取得されていますが、B級を取得された際にCPPガイドをご覧になったときの印象は覚えておられますか?
澤野
はい。調達全体を勉強する観点からCPPは一通り網羅されているため体系立てて学ぶには非常に良い教材だと感じました。
吉田
ありがとうございます。
澤野
私は元々生産管理にも従事していたため、調達の前後工程のイメージは持っていましたが、その流れを理解していなければ調達としてサプライヤーや社内と話もできません。我々職制がまず率先して取得し、その後部下たちに普及すべく推進しています。
吉田
鈴木さんも2021年にB級を、そして2023年に見事A級を取得されていますが、CPPの受験に至った背景を教えてください。
鈴木
2020年の創部に伴いマーケティング、販売領域から調達に異動した私にとって、調達は販売と反対のことをすればよいのかなという印象でした。ただ、ロジスティクス部に異動するまで調達の経験がなかったため、専門知識はもとより調達に関する知見、専門性が全くありませんでした。そこでCPPの勉強をすることにしました。
吉田
実際に勉強をしてみていかがでしたか?
鈴木
CPPのテキストには調達の専門的な内容も多く、私にとっては新しい知識として非常に勉強になりましたね。経験がないものを何かで補う必要があると思っていたため、CPPの教材は大変良いツールであり、その勉強が良い機会になりました。B級に合格するために学んだ経験、「調達とは何か」を勉強できた過程は非常に有意義でした。
吉田
ありがとうございます。
鈴木
CPPの教材には調達の前後工程や市場特性、財務諸表の内容も含まれています。対会社で話す際にあったほうが良いであろう基本的な知識も網羅されている印象です。対外的な業務経験のない調達担当者にとっても、外部との折衝・交渉能力やコミュニケーション力を高めるためのベースとなる知識が広く得られる網羅性の高いテキストになっていると思います。
澤野
CPP資格を取得した人間は生き生きと仕事をしている印象もありますね。
吉田
CPPの受験に向けて、御社独自の学習施策なども展開されたのですか?
澤野
私がB級を取得した後しばらくの間、週1~2回のペースで朝の時間を活用しテキストの読み合わせを行っていました。
鈴木
私はB級合格後、テキストの中身というよりも勉強方法のコツをアドバイスしていましたね。
吉田
ご自身の受験経験から得た知見を共有されたのですね。
鈴木
CPPのテキストは分量が多く、大切な項目が重複して記載されています。特に知識を問われるB級では、重複部分を圧縮して効率良く吸収できるよう、テキストの要約版を「自分ノート」として作り自習に役立てていました。
吉田
「自分ノート」ですか。興味深いですね。
鈴木
アウトラインと要約を記した、いわばCPPガイドの地図的な位置づけとして作った資料です。それでもWord10枚以上になりましたからCPPがいかに広範囲に及んでいるのかわかりますよね。そのダイジェスト版を目次的に活用しながら、効率的に学習できるよう助言していました。
吉田
素晴らしいですね。
鈴木
オンラインセミナーが始まった後は、セミナー聴講が有意義だったため、そちらに切り替えました。オンラインセミナーは合格率の向上に非常に役立ったと思います。
澤野
オンラインセミナーは評判良かったですよ。
鈴木
通勤中に視聴したり、倍速での聴講も可能なので時間を有効的に活用できたようですね。
吉田
CPPが実務に役立った点があったら教えてください。
澤野
3点あります。
まず、我々に圧倒的に不足していたのは先を見た戦略・戦術の立案でした。CPPのテキストにはその点がしっかり記載されています。テキストを起点としながら取り組みをスタートさせられたのは大きな効果だと思います。
吉田
ありがとうございます。
澤野
また、開発購買領域の内容も有意義でした。従来は開発と調達を区別した考え方で動いていました。しかし、調達はその一つ前段階からスタートできると認識を新たにしたことが実践に活かされたと感じています。
吉田
もう1点も是非ご教示ください。
澤野
教材を参考にしながらスキルマップを作り直しました。
吉田
鈴木さんはいかがですか?
鈴木
私は調達に異動して半年ほどでB級を取得したため、今自分が行っている業務のほぼ全てがCPPから得た知識で成り立っていると言っても過言ではありません。
吉田
これ以上ないお言葉をありがとうございます。
鈴木
具体的に挙げると、弊社の調達品グルーピングマップの作成に役立っています。
昨年、仕入先の評価の中身を一新し、その結果が出てきました。現在その結果に基づき調達品のグループ分けを行い、今後の施策を各リーダーと検討しています。その過程では、サプライヤーマップや品目別のカテゴリー戦略がないと先に進めません。それらを作るにあたりリーダーから相談を受けるたびにCPPのテキストを見るよう勧めています。テキストに書いてある内容を手本としながら当該マップを作るべく取り組んでいます。
吉田
テキストを業務遂行の一助として活用いただいているのですね。
鈴木
また、どのような職種にも言えるかもしれませんが、仕事をしていくうちにどうしても自社流の言葉ややり方が独自に発達してしまう傾向があります。
吉田
そうですね。
鈴木
それは社内では通用しますが、対外的には通用しません。何らかの基準を持つことが必要です。「これが基準だ」と皆が理解した上で改めて自社のやり方を見ると、対外的に話すには我々独自の言語を使っても伝わらないと気づけます。そういう意味でコミュニケーションスキルの向上にも繋がっていると思います。
澤野
「調達は勘と経験と度胸だ」などと言われていた時代もありました。こうした属人的なやり方ではなく、指針となる基礎を学ぶことで共通言語が得られ自信にも繋がります。CPP学習は、対等に交渉の場に臨むための一つのツールとして十分役立つと思いますね。
吉田
どのような方にCPPの学習は役立つとお考えでしょうか。
鈴木
調達を担う組織に所属する全員にCPPを学んでほしいと思います。経験が浅い人は自分の経験のプラスになるでしょう。逆に長い方は仕事のやり方が自分流に寄っている可能性もあるため、調達のスタンダードを知る上で役立つでしょう。
吉田
調達経験の長さを問わずお勧めいただけるのですね。ありがとうございます。
鈴木
弊社において、調達経験の長いメンバーと浅いメンバー間でコミュニケーションギャップがわりと少なく業務が遂行できている要因は、CPP学習にあると思っています。
澤野
新卒も含め、調達を初めて経験する方にはB級のテストに象徴されるような言葉の定義を理解するためにも早い時期からCPPを学ぶことをお勧めしたいですね。
鈴木
そのためには、CPPのEasy版のようなものがあるとさらに良いかもしれないですね。学校を卒業したての方が読んでも理解できる、調達に携わる人が知っておくべき「いろはの“い”」が凝縮されたパートがあると、もう少し入りやすくなると思います。
社会経験なくCPPを学ぶ人は、市場や財務諸表の内容を含め、まず4冊のテキスト内容を理解するだけでも大変です。CPPのEntry版があると人材教育・育成のツールとしての質も向上し、導入しやすくなると思います。
澤野
鈴木はマーケティングや販売など他領域でのキャリアがある程度あったため、幅広いCPPを学ぶ素養がありました。しかし今後の調達は、社会経験や他領域経験の有無、様々なバックグラウンドを持った人材が担う時代になるでしょう。ビジュアライズ、特に空き時間を有効活用できる動画学習は非常に有益だと思います。そうしたツールを拡充していただけると、さらに幅広い方に学んでもらえる教材となるのではないでしょうか。
吉田
ありがとうございます。
澤野
一方調達経験の長い人は、点では調達を理解していると思いますが、その点と点が繋がっていない可能性もあります。点と点を繋げ、さらにそれを戦略に繋げていくためには、調達を体系立てて学べるCPPは大変良いツールになるでしょう。
吉田
調達経験の長い澤野さんならではの視点もいただきました。
澤野
調達キャリアの長い人はどうしても自分の経験に頼りがちです。業界の常識を改めて学び、一度自分の業務を見直してみる意味でもCPPの勉強はお勧めですね。自身のスキルや業務フローの再確認に役立つでしょう。また、外部のコンサルタントを招聘した改革を行う上でもCPPを通じて得た専門用語の知識は極めて有益でした。仕事を系統立てて行うためにCPPは非常に良いツールだと思います。