三菱UFJ銀行インタビュー

株式会社三菱UFJ銀行 経営企画部 購買戦略室 購買・調達グループ 次長
齊藤 隆 様に、「CPP資格取得」の背景やご活用についてお伺いしました。

(※以降敬称略、所属・役職は2023年12月20日時点)

谷澤
まずは組織について教えていただけますでしょうか。

齊藤
私が所属する購買戦略室は、2020年に経営企画部内に新設された組織です。銀行は、社会全体・産業界を支えることが使命ですが、その分、自らの業績も一定程度、経済環境の影響を受けます。当室が立ち上げられた2020年当時は世間の経済環境全体が非常に苦しい時期でした。我々銀行も業務粗利益(一般的な企業における売上に相当)を簡単には伸ばせない環境が続いていました。従来以上に、経費をいかに適切にコントロールするかが、安定的に利益を確保できるかに直結するとして、大きな経営課題となった時期でした。

谷澤
景気環境を背景に大きな経営課題が立ちはだかった時期だったのですね。

齊藤
そうした状況下で、経費に関して、購買活動、調達活動にも改善の余地があるのではないかと問題意識が持たれました。こうした課題認識を背景に、経営企画室の中に、全社単位で横串を刺して購買調達活動を統制していく役割を担う組織として、購買戦略室が立ち上げられました。

谷澤
従来はどのような形だったのですか?

齊藤
それまでは組織横断的に購買調達活動を統制する組織がなく、非効率が存在していました。課題と認識された、購買ロットを全社単位で見た調達プロセスの合理化や、サプライヤーとの新たな協力関係の構築等、調達活動の最適化を目的に設立されました。構造的に間接購買が中心となる金融機関としては比較的ユニークな組織ではないでしょうか。

谷澤
具体的には何が間接購買にあたるのでしょうか?

齊藤
メーカーのように、商品の材料となるものが購買活動の主な対象となるわけではありません。金融機関では、業務委託が大きな分野です。銀行は内部のリソースだけでは対応しきれない業務を多くのパートナー企業様に支えていただいており、その対価が、業務委託費等の形で銀行からキャッシュアウトしています。
また、我々は物件費と呼びますが、コピー用紙等のような業務に必要な周辺備品類、出張・旅費交通費も我々の統制範囲です。

国部
商品の直接的な材料がメインではないところが、メーカーとは大きく違う点ですね。御社のような専門部署は、他行でも同様に設けられているのですか?

齊藤
近いミッションを背負う組織を持つ銀行はあると思います。ただ、どちらかといえば予算管理に焦点を当てておられる印象です。我々のように購買・調達活動そのものを統制し、時にサプライヤーとの交渉の席にも立つ組織は比較的ユニークではないかと考えています。

国部
金融業界の中では、御社の取り組みは先進的と言えますね。

~ 知見と経験で舵を取る!部署発足からの歩み ~

谷澤
齊藤さんはどのようなお立場・お役目に就いているのでしょうか?

齊藤
購買戦略室内の実務を司る購買調達グループの担当次長として、特定の取引における調達構造を大きく変えるプロジェクトのリーダーを務めています。

谷澤
当初から部署をまとめるお立場だったのですか?

齊藤
2022年に着任しましたが、2020年の部署立ち上げ当初は別部署に在籍しながら、当室を兼務する形で、担当者として従事していました。

谷澤
初期の頃は、どのような役割や状況だったのですか?

齊藤
組織がスタートした直後は、各部門に兼務者を置きながら全社の状況を把握する形でした。私は銀行のバックオフィスを支える事務企画部という部署におり、部署の予算管理を担当していました。事務領域のコストコントロールにも携わっていたので、それらの経験から、アサインされたのだと考えます。

国部
いわゆるプロジェクトチームのような形ですか?

齊藤
そうですね。主務のメンバーも当然いますが、そのような側面もあったかもしれません。

谷澤
その後、専任になられましたが、どのような会社の方針や考え方があったのでしょうか。

齊藤
部署異動と同時に今の職責になっています。兼務者としての活動や、大きなコストを担当している部署での経験や知見が求められたのではないかと想像します。推して下さった上司の存在もあったと感じています。当時からこうした領域には自分なりの課題意識を持って向き合ってきたつもりでしたので、アサイン頂けたことには、今でもとても有難く感じています。

~ 金融業界に訪れる変化の時代 ~

谷澤
こと調達業務において、近年の金融業界の課題に関して、どのように考えておられますか?

齊藤
銀行は、関係業務を委託しているサプライヤーの皆さまのリソースに大いに支えていただきながら、業務が成り立っている側面があります。業務委託先の業界も、それぞれに人材不足に悩まれていることを感じています。
調達購買業務と聞くと、価格交渉がまずイメージされがちです。しかし、これからの時代においては、サプライヤーの皆さまにとってもより希少・貴重になってくる人材という限られたリソースを、いかに優先的にMUFGに振り向けてもらえるか、という役割に、重きが置かれてくるのではと想像しています。
単純な、高い、安いの議論をするのではなく、先方様にとっても限られたリソースを、「MUFGのためなら」と言って頂いて、ご提供頂けるような関係が構築出来るか、ということです。MUFGとの取引に魅力を感じて頂ける、或いは、MUFGと新しいことに共に挑戦して頂ける、真の意味でのパートナーとしての関係性を、サプライヤーの皆さまと築いていきたいと考えています。

国部
業務委託の範囲は幅広いと思いますが、システム関連も購買戦略室の統制範囲に含まれますか?

齊藤
システム関係のコストは、システム企画部という部署が管理しています。我々が関与する部分もありますが、システム関連の価格統制には、我々とはまた違う知見が必要であり、同部署のリードで様々な取組が進められています。テキストの開発購買の章は興味深く読ませて頂きましたが、課題を感じる部分でもあります。両部署で取り組んでいくべき領域かも知れません。

国部
業務委託系の他、消耗品、交通費等のコスト管理をされていると伺いましたが、一番キャッシュアウト比率が大きいのは何ですか?

齊藤
やはり委託費が大きいですね。

国部
メーカーにとっての支出は形あるものが多いですが、銀行の場合、調達品には具体的にどのようなものがありますか?

齊藤
当室が見ているコストとしては業務委託費が大きな割合を占めます。出張・旅費交通費や、情報を買う領域、更にはお金を物理的に運ぶための車両、保管といった物流費も管理対象に含まれます。いずれも専門性が必要ですし、全国での活動に伴うまとまったコストが発生します。

国部
現組織の創設前、部門・組織ごとの単位で行われていた印刷物や消耗品等の購買を、現在は購買戦略室である程度統括されているのですよね。

齊藤
そうです。ただ、間接購買においては、どこまで購買組織が決定権限を持つべきか。スピードの遅延の要因にもなり得るため、そのバランスは非常に難しいテーマです。テキストにもそうありましたね。
我々の場合は、原則的なルールを作れる領域は作りますが、個別判断が必要な案件についてはあくまで現場が希望に基づく原案を作り、我々はその申請に対して、培ってきた知見を持ってサポートする立場です。或いは、現場から知見提供の依頼があれば、積極的にアドバイスもします。ビジネス領域においては、各ニーズに照らしたアウトプットが可能なサプライヤーについて、我々よりも現場のほうが知見を持っているケースもあります。一方、世の中一般の最新の価格水準は現場には見えていないこともあるかも知れません。互いの知見を組み合わせて、良い結論を導けるように相互に努力しています。

国部
購買戦略室ができる前は、その機能はなかったのですね。

齊藤
はい、ありませんでした。各部の判断で行っていたので、例えば同じ材・サービスを購入していても部署によって単価に差がある、といったケースもあったはずです。

国部
組織を立ち上げて3年経過しましたが、情報も集約されて、購買戦略室として具体的な成果はありましたか?

齊藤
室としてということであれば、郵送物の統制は大きな成果を上げた領域でしょうか。銀行の取り扱う郵送物の量はとても多いため、コストも非常に大きな規模になります。原価を構成するのは、紙代などの物件費、印刷費だけでなく、郵送費も含まれます。印刷の単価だけでなく、送り方を変更するだけで、郵送費においても大きなコストリダクションが狙える領域でした。部署立ち上げ当初から、当室の担当がルールメイクをしてくれ、従来は封筒で郵送していたところを、圧着はがきに変更する等の取組をしました。仕様の違いだけで1~2割程度のコスト削減が出来たのではないでしょうか。私は当時、担当部の方におり、個々の郵送物について、これらは本当にお客様がお求めのものなのか?という観点から、発送の是非から見直すプロセスに関わっていました。購買戦略室によるルールメイクと、担当部でも抜本的に見直して頂くことの組み合わせで、大きなコスト削減に繋がりました。

国部
それは素晴らしい成果ですね。

谷澤
CPPを知ったきっかけや背景を教えてください。

齊藤
同じ室内の別のマネジメントが、自己啓発などの資格を調べている時に見つけたようで、情報連携してくれました。率直に面白そうだと思いました。

谷澤
何か受験の決め手はあったのですか?

齊藤
社内で、今年の5月に「変革・挑戦支援金」が支給され、これが大きなきっかけであり決め手でした。

谷澤
「変革・挑戦支援金」について詳しく教えていただけますか?

齊藤
当行では、自己啓発やリスキル等を含む、より一層の変革や挑戦への取り組みの後押しを目的に、1人当たり最大10万円の「変革・挑戦支援金」が支給されました。

谷澤
変革や挑戦への後押しの一環なのですね。

齊藤
はい。私の場合は、テキスト購入、受験料がちょうど支給額に見合うものでした。また、支給の目的に照らしても、適切な使い道であると考えて、受験を決めました。広い意味では、今回の受験は会社のサポートによるものと受け止めています。

谷澤
受験される前は、組織または個人としてどのような課題を感じていましたか?

齊藤
組織も新設ですし、この領域に専門的に従事してきた同僚もいません。私は、従前の部署で予算管理には携わっていたためある程度の勘所はありました。一方、その程度の知識に頼って方針等を判断してしまってよいのか、組織の方向付けを誤ってしまわないか不安がありました。

谷澤
実際にCPPに取り組んでみて、率直なご感想はありますか?
齊藤
非常に体系的に整理されていて、学びがいがありました。この資格は、直接材の購買調達が中心となる製造業の方を想定しているとの理解です。しかし金融業の場合は、直接材が少なく、むしろ間接材が購買調達活動の中心であり、大きな違いがあります。テキストにおいても、間接材に関しては第9章の一部に記載があるのみです。

谷澤
そうですね。

齊藤
一方で、通して学習してみると直接材・間接材いずれも発想自体は通底していると良く分かりました。テキストでも紙面の多くを割いているサプライヤーとの向き合い方、原価分析等は、間接材でも同様に肝となる分野であり、業務とリンクする箇所が多く、納得感を持ちながら勉強できました。

谷澤
それは嬉しいお言葉です。

齊藤
我々が扱うのは主に間接材です。恐らくメーカーの購買部署は、もっと厳しい戦いをされているのだろうと想像していました。自分たちの取り組みのレベル感や発想が、これでよいのか。この程度でよいのか。漠然とした不安があり、きちんとした理論を学びたいと思っていました。

谷澤
その思いが原動力となったのですね。

齊藤
これまで実務を通じた経験値の積み重ねの中で、あるべき姿をイメージしてきましたが、それらの理論の裏付けを持って再整理でき、新しい気づきもありました。自分たちがやってきたことが決して間違いではなかったという自信にもなり、大変貴重な学習機会でした。

谷澤
ありがとうございます。CPP導入・受験までに、何か障壁はありましたか?
 
齊藤
受験に向けての障壁はありませんでした。比較的自由に試験日程/時間帯も選べる点も助かりました。課題だったのは勉強時間の確保くらいでしょうか。

谷澤
勉強時間はどのように確保されたのですか?

齊藤
通勤時間や、土日、子供の宿題の面倒を見る際に一緒に勉強をしました。生活の一部に学習時間を組み込む工夫はしました。

谷澤
学習の中で、業務で活かしていきたい内容はありましたか?

齊藤
第4章に、「(サプライヤーとの)取引は信頼関係に基づくパートナーシップと基本とするべきである」また「目標の実現に向けてお互いの持てるノウハウや情報、知恵を結集し、それらを組み合わせることで新しい価値を「協創」することが重要である。双方で世界一の競争力を獲得するという意識で取組むことが必要である。」という表現がありました。
私は漠然と、そのようにあれたらよいなと考えてきました。体系的に整理されたテキストの中においても、このように位置付けられており、とても心強く感じました。より確信を持って、この実現を目指したいと考えられるようになりました。

谷澤
学習された内容は、組織内に展開されたのですか?

齊藤
そうしたいところですが、それなりにボリュームのある内容でしたので、まずは資格制度の紹介と、やってみて良かったというフィードバックを行ったところです。

谷澤
ご自身では、どのように活かされましたか?

齊藤
まだ試せていないスキームがあるのではないか等、頭の中での材料にしました。計画立案のタイミング等で、どういった発想が取り得るかの参考になると思い、テキストは合格後も手元において業務していますよ。

谷澤
CPPは、特にどのような方に受講してもらうと良いでしょうか。

齊藤
初めてこの調達業務に携わる方から、中堅層の方に受講してもらえると良いのではないでしょうか。
少し難しいのは、テキストの内容が唯一の正解では無い点でしょうか。それぞれの会社には置かれた現状に合わせたルールやスタンダードがあります。テキストの内容と違ったとて、それが単純に誤りであるわけでもありません。ここは留意する必要があるでしょう。まずは資格取得を通じて様々な知見を得て、現状とのギャップが認識できれば、そこに新たなチャレンジの芽を見つけられるかも知れません。そうした気づきが得られれば、非常に良いことだと思います。

国部
「正解」というよりも「標準」と捉えていただけると良いかと思います。

齊藤
そうですね。初めてこの領域に携わる方が、これが唯一の正解だと信じ込んでしまうと、現実の仕事のほうがうまく進まなくなるかも知れません。四角四面なことを関係者やサプライヤー側に要請してしまい、話がこじれてしまうこともあるかも知れませんね。その意味でも、少し経験を積んだ中堅層の方が受講すると、より良い理解、気づきが得られるのではないでしょうか。

谷澤
実は、金融業界の方にCPPをどのように活かしていただけるのか、とても興味がありました。

齊藤
多くの金融機関は、メーカー等と比べると、購買活動、調達活動に専門的に従事してきた人材を潤沢に抱えているわけではないのではないでしょうか。購買調達業務におけるロールモデルが明確にあるわけでもなく、ヒトから教えてもらうにも限界があります。また、体系的にスキームが整理された書籍も少ないと感じていました。そのような中で、こちらのテキストは非常に良くまとめてあり、学習のしがいがありました。

谷澤
嬉しいお言葉です。ありがとうございます。

国部
齊藤さんは、A級の取得もされているのですよね。この大きな壁には、どのように取り組まれたのですか?

齊藤
実はB級に合格した数日後に、A級で求められるレベル感を把握したくてすぐに受験してみました。その時は合格には至りませんでしたが、問われる内容を把握できた点は大きいものがありました。出題の中には、多少勉強した程度ではとても解けそうにない難解な問題や、逆に勉強しなくても論理的に考えていけば解ける問題も含まれていた印象です。

谷澤
一筋縄ではいかないような問題も含まれていたのですね。

齊藤
はい、少々勉強した程度では限界がある問題と、確りと準備すれば解ける問題が混在している印象でした。前者のタイプの出題数は限られる印象でしたので、どちらかと言うと、後者のタイプの問題の正答率を確実に高めておくことが合格への近道になるのではとの感触を得ました。基本的な知識の取りこぼしがないよう、もう一度テキストを見直し、自分の頭を整理しました。1ヵ月後に再受験に臨み、合格できました。

谷澤
実際に受験されてみて、どのような感想を持ちましたか?

齊藤
A級は、2回目のチャレンジでしたので、合格できてほっとしました。振返ってみると、特にB級が非常に良い試験であると感じました。分野ごとの採点結果が細かく開示されるため、合格ありきだけでなく、分野別に自分の得意不得意が確認できます。十分なレベルに達している分野には自信が持てますし、強化すべき領域に対する気づきも得られました。

谷澤
知見の偏りや、気づきが得られたのですね。

齊藤
はい。もし可能であれば、有取得者が継続的にチェックできるような再受験の仕組みがあるとよいのではないでしょうか。本質的な目的は業務スキルの向上にあるわけですから、ぎりぎりの合格でも資格取得できれば良い、ただ合格すれば良い、というわけではないはずです。継続学習の中で、欠けている部分が確認できるツールにしてもらえたら、有資格者にとっても、継続して受検する価値が産まれる気がします。

谷澤
確かに継続的に使ってチェックしていただけたらありがたいですね。貴重なご意見ありがとうございます。是非検討してみます。
最後にこれから受験する方にメッセージをお願いします。

齊藤
非製造業の合格者、特に金融業界における合格者が非常に稀であるとのことで、今回のインタビューのお申出を頂きましたが、このこと自体がとても意外であり、驚きました。組織として購買調達活動のスタンダードが確立されていないであろう非製造業に従事される方にこそ、学ぶものの多い資格だと考えます。

谷澤
ありがとうございます。

齊藤
製造業でも、個社の事情も多分に含んで購買調達業務が形作られているはずです。金融業ではなおさら、所属する組織の事情や、個人の経験に頼る部分が大きくなるのではないでしょうか。当社ではこうなっている、私はこうやってきた、皆さんそれぞれの経験があると想像します。

谷澤
おっしゃるとおりだと思います。

齊藤
それが世間一般のセオリーに照らして適正なのか、疑問や仮説を持ちながら、テキストの内容と照らし合わせていくと、得るものが多いと考えます。実務とリンクさせつつ、知的好奇心を持ちながら楽しんで学習・受検に向き合われると良いのではないでしょうか。

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