江崎グリコ インタビュー

江崎グリコ株式会社 グループ調達部の方々へ、CPP資格制度の導入やご活用について事務局がお伺いしました。
グループ調達部 部長 森田裕之 様、秋山幸司 様
(※敬称略、所属・役職は2021年 4月13日 時点のもの)

吉田
それでは、よろしくお願いします。早速ですが、森田さん、秋山さんの現在のお立場、お役割について教えてください。

森田
私は江崎グリコでグループ調達部の部長を2019年5月から担っており、調達部門全体のマネジメントを行っています

吉田
ありがとうございます。続きまして秋山さん、いかがでしょうか?

秋山
私は、2017年9月に江崎グリコに入社しまして、これまで、お菓子、アイスクリーム、飲料関係に使用する原料を調達する業務を担当しておりました。今はアイスクリームの原料全般と海外の乳製品・油脂の原料を担当しています。

吉田
ありがとうございます。
CPP資格を導入する以前、調達部門でどのような課題がありましたでしょうか?

森田
私の方から説明させていただきます。

2020年5月に今の部署に来た後、メンバーをずっと観察して、ちょうど100日目の8月8日に、経営層とメンバーに対して“調達部としての3年間の中期的目標”を発信しました。

その目標の1つに『調達プロフェッショナルを育成していかなければならない』ということを掲げました。

前職でCPP導入の経験もあり、そこでメリットや成果というものも既に実感しておりましたので

取り入れよう思いました。江崎グリコでも、一部の社員はCPP-B級の資格を既に持っていましたが「組織的に取り込もう」「必須資格にして、マネージャーはCPP-A級までの取得を必須にしよう」という組織目標を掲げ、予算を取り、開始しました。

同時にCPP-B級資格取得だけではなく、JMAの調達ロジックに関する内容の講師派遣型の研修を2020年早々に、江崎グリコのバイヤー(の立場にいる社員)全員参加で丸1日かけて行い、その後、座学の知識に終わらせず、メンバーがそれぞれ担当品目別に落とし込んで、代表品目の戦略構築と実行に活用していくような取組みを行いました。

今時点でCPP-A級資格保有者が3名、CPP-B級資格保有者が14名(CPP-A級取得者含)となり半数以上が取得していて、2021年内に全員取得を目指しています。

資格取得と合わせて調達専門用語が共通言語となっていきますので、VMI、VE、VRとかアルファベットでも調達の会話ができるレベルにまでなれば、専門性もかなり高くなっているだろうと思っています。

勝田
森田さんありがとうございました。
調達プロフェッショナルを育成していこう、というお話の中で森田さんが今の部署に来られた時に、調達部門の中で調達プロフェッショナル像というものはありましたでしょうか?

森田
私の認識ではなかったと思います。
我々の部署には、調達経験が全く無いメンバーもいましたし、別会社で調達の経験をしていたメンバーもいました。ただ、前職での経験、スキル、知識が、組織能力・チームとしての力にはなっていなかったと思いました。

そういった事情もあり、“経営に貢献する調達”という目標を掲げたわけですが、社内のノウハウ、知識、スキルだけでは心もとないかなと思い、「もっと科学的アプローチで論理的にモノを買っていこう」ということでCPPを導入しました。

勝田
ありがとうございます。調達プロフェッショナル人材について、森田さんのお考えを教えていただけますでしょうか?

森田
「グローバル調達、サステナブルソーシングを含む、高度な調達戦略を立案・実行できる人材」と、考えています。

勝田
やはり、世界でビジネスを展開する中で、グローバルという部分は欠かせないキーワードでしょうか?

森田
そうですね。これまでもグローバル調達に取り組んでいなかったわけではないのですが、江崎グリコもタイ、中国、東南アジアを中心に購買が分散している状況で、「じゃあこれからどういう風にしていくか?」といったことは課題としてありまして、2020年に海外調達メンバーも含めた全体会議を実施しました。

まずは、お互い「何を、どこから、いくらで、どのぐらい」といったような情報共有からスタートして、いずれはソーシングも一緒に力を合わせてできるようなレベルまで引き上げていきたいと思っています。

勝田
基本的には地産地消という考え方にはなるのでしょうか?

森田
モノによりますが、原料メーカー、専門商社、総合商社などグローバルプレーヤーと取引するケースもあります。グループで戦略パートナー化していくことは必要だと思っていますね。

勝田
グローバルでのサプライヤーマネジメントが求められる業務ということですかね。

森田
そうですね。ただ、今後は原料のコモディティ化から脱却してスペシャリティ化を狙っていくために、直接貿易も取り入れていく必要性もあるかな、と考えています。

勝田
ありがとうございます。

吉田
CPPを導入するにあたって、社内で何か障壁になったこと、苦労されたことなどありましたでしょうか?

森田
障壁は無かったですね。経営層には「CPPの論理を取り入れ、ロジカルに調達する組織の実現」にコミット、宣言しておりましたし、ありがたいことにメンバーから「やってみましょう」と歩み寄ってくれました。

吉田
メンバーの皆さんの「よし、やっていこう!!」といった前向きな姿勢は、江崎グリコさんに元々あった組織風土かもしれませんが、やはり森田さんのマネジメント力、リーダーシップも影響しているのでは?と感じました。森田さんの、メンバーに対して何か行われたことがありましたらご紹介いただけますでしょうか?

森田
そうですね…、私はこちらの部署に来てから100日目の発表をするまで、それこそメンバーとの信頼関係も何もなかったので、自分自身で”外から来た人間”と思っていました。

もっと言うと「実力のほうはなんぼのもんじゃい」的な見られ方をされるのだろうなぁ、といった不安や思い込みもありました(笑)。

ですので、最初にやったことは『メンバー全員との面談』です。

今の部署に来る前に、私がメンバーの皆さんに面談で聞きたいことを6~7個程メールで事前に送りました。まずは「皆の考えていること、困っていること、私に期待していることを知ろう」というスタンスで、メンバーの皆さんと1時間程度の面談を行いました。

その面談と100日間の観察の中で江崎グリコの文化なり人なりということを考え、課題を発見して、構造化して、その解決に向けて掲げた中期目標の1つがプロフェッショナル育成ということだったわけです。

その過程で、メンバーの皆さんが私のことを「この人、真面目にやろうとしているな」という印象をもっていただいたのでは、と思います。

いずれにしても、CPPの中身が非常に説得力あるロジックですので、メンバーも、最初教科書のあまりの分厚さにびっくりしたでしょうけど(笑)、読みはじめると「あ、これは必要知識だな」と思ってくれたのだと思います。だから、合格者が早く出ているのだろうと思っています。

吉田
ありがとうございます。ここで、秋山さんにお伺いします。

今、森田さんからCPPの社内導入についてお話をいただきましたが、実際に秋山さんが受験される上で何か障壁になったことがありましたら教えてください。

秋山
資格取得に取り組むという点で、先程、森田が申しましたとおり私自身も障壁やハードルというのは全く感じませんでした。

確かに教科書が分厚いということはあったのですが(笑)、実際に導入編とか実践編の中身を見ると調達の”あるある”と、それに対する対処法が論理的かつ手法として書かれており、言葉の意味が明確で、調達方法も何パターンか紹介してある等、

CPPを取組みながら、これまで私自身が調達業務をする中で「なんとなくOJTでわかっていたけど、他の人に教えるレベルになっていなかった」というところを頭の中で整理できました。実務に活用できるようになり、『非常にレベルアップしたな』というのを実感していて、取り組んでよかったと思っています。

吉田
ありがとうございます。

勝田
他社でヒアリングをさせていただくと、「合格できる確率が高い見込みが高い方から受験させていく」というパターンをよく伺います。お二人に伺いしたいのですが、江崎グリコさんの中でも、受験される方の優先順位などありますでしょうか?

森田
部門の目標として全員合格ということを掲げていて、目標についても全員納得の上で作っています。

何より私がCPPの資格を持っているので、私が持ってなくて言うと全く説得力が無いのですが(笑)、「やろうよ」「必要なんだよ」「私も10年程前に取得したんだよ」ということを発信しました。

CPPガイドブックを読み返し、完成度の高い体系化された調達に関するロジック、セオリーが書かれていたのだな、ということを改めて感じています。

きっとメンバーの皆さんが「年齢に関係なく自分の業務専門性を上げるために必要な知識なんだ」ということを理解してくれたと思いますね。メンバーがCPPに書いてある内容に納得できる内容だったからだと思います。

勝田
ありがとうございます。内容についてですが、組み立て産業寄りの事例が多くあるかなと思うのですが、江崎グリコさんは食品業界で、どちらかというと装置産業、プロセス産業に近いような印象があり、学習と受験を進めていく中での違和感、ギャップ、苦労はありましたか?

秋山
おっしゃった通り、組み立て産業の事例や手法が紹介されていることもあったのですが、私の印象は「我々のような業態でも活用できる事例が半分以上あった」と思います。

もちろん、組み立て産業式の手法を直接的に取り入れるということはできないのですが、その手法を知ることで逆に新たなアイデアが生まれてくることもあるのかな、と感じました。

実際、私自身も、一緒に勉強をしたメンバーも「全く役に立たないよね」という印象は無く、「こういう考え方で、自動車メーカー、部品メーカーはこういう風に調達業務をやっているんだ」「じゃあ、自分達の業務に置き換えたときにはどのような考えになり、どのような流れになるかな?」といった、因数分解して昇華させるような思考になっていたのかな、と思います。

勝田
違いの中から学びに結びつけていったということですかね?

秋山
そうですね。それが、やりがいにもつながりましたし、実際、価格査定の方法など参考になりました。

森田
MBAの教科書に書いてあるようなことが、CPPガイドのマネジメントや問題解決手法などに書いてありました。マネジメントのナレッジが、非常に汎用性の高く、しかもレベルの高いものが分かり易く書かれているな、と思います。

秋山には、資格のRepresenter(リプレゼンター)として勉強会を開くなど、部内に展開をしてもらっています。

在宅勤務など、なかなかメンバーのエンゲージメントが上がりにくいご時勢で、試験対策の勉強会を通じて、試験に合格するという一つの目標に向かって、部内コミュニケーションを上げていくというようなことにも、活用できているところがあります。

合格するということは非常に明確な目標になりますので、「1つの方向に向かって走りやすいな」と思っていました。

ほとんど、リモートでやっていたんだよね、秋山さん?

秋山
そうですね。緊急事態宣言中、在宅勤務の中、リモートで皆やっていました。

その中でもちろん 合格という共通の目標を持ちながら行っていたのですが、回を重ねることに「学習を実務応用にできないかな?」といったモチベーションに変わってきた、と体感しましたね。

例えば「うちの会社で実際に応用するとしたら、こういう事例だよね」っていう議論が自然発生していき勉強会を通じて、合格しよう、実践応用しようという気持ちにマインドセットされる場になった、という印象です。

勝田
自分たちのその業務と照らし合わせる中で、皆さんのモチベーションの高まりや、理解が深まっていった、ということですかね。

秋山
そうですね。”あるべき姿を考える癖”がついた、と感じています。

吉田
ありがとうございます。CPPには業界の事例が書かれていますが、自社に置き換える力…、置き換え力とでも言いますか、外の情報を知っていないと簡単ではないかと思うのですが、普段のアンテナのはり方とか、トレーニングされていること等ありますでしょうか?

森田
そうですね…、直接の答えになるかどうかわかりませんが、江崎グリコには食品業界や、それ以外の業界からも様々なキャリアをもった方が多く入社しています。

そういった点では、意見が言い易く、お互いをリスペクトするみたいな社風ですので、ダイバーシティのある組織だと思います。社員が“創業の精神”を理解して、共感した人間たちが来ているので、”ベクトルが同じ方向に向きやすい”のだと思いますね。

吉田
ありがとうございます。森田さんが資格を取得されて10年ほど経過したと伺いしましたが、当時と今とでは、業務内容や役割などが変わっていてもCPPに書かれている内容は使えていますでしょうか?

森田
以前調達に携わったのが2008年から2015年までの6年半で、そのうちの2年間は調達改革のプロジェクトをやっていました。

改革を進める上でも、CPPの教科書に書いてある内容は大いに役に立ちましたし、実際にグループの横串、いわゆる大調達部ですね、各事業会社に個別にあった調達部門とグロ-バルの部分を機能統合し大調達部を立ち上げた際にも有効でした。

一番、有効だなと思った瞬間は、海外では調達一筋で複数の会社をまたがって業務ををやってきたバイヤーが多いのですが、そういったグループ海外子会社の調達のスペシャリストと初めて会った時に、英語で調達の話をすると、この本に書いてある内容は全部通じました。

その時、「あ、これはグローバルで共通言語なんだ。調達の共通の理論なんだ」ということを感じて、CPPがグローバルに通用すると確信を持った瞬間でした。

そのため、今回の部内で展開するということに、確信と自信がありましたし、使えるかどうかを疑う余地は全くなかったですね。そう意味では、10年ほど前の当時から今に至るまでずっと使えています。

吉田
ありがとうございます。秋山さんいかがでしょうか?

秋山
はい。先ほどの話にも挙がりましたが、CPPの考え方に倣ってサプライヤー調達戦略を立案し、品目別にできたというところが大きいです。

今まで既存商流で何となくやっていたような業務もありましたが、半年くらい調達戦略をしっかり考えて、論理だったものを作りました。今では、それを根拠に購買しており、業務指針となるものが作れましたので非常に有効でした。

あとは、コストリダクションの手法を実践したり、地震があった際にどういった行動を取るか、などのBCPに関する手法を実際に取り入れたりしました。

森田
品目別の調達戦略は、何回もメンバーとコミュニケーションを交わして作っていきました。

(品目別の調達戦略が役立つ点としては)「どうやって買っていくのか?」ということをメンバーと合意していくこはもちろんですが、私は違う面もあるのかなと思います。

調達部には、「調達がどういう方法で買おうと考えていて、実際に行っているのか?」ということをマーケティング部門や外部の方たちに説明する責任があると思っていて、

「結果的に高くなりました、安くなりました」とか、そういう話ではなくて、マーケティングの戦略などを仕様という形で反映させて『どうやって買っていこうとしているのか?』ということ確立していくためには、品目別の調達戦略が必要だと思っています。そこで、2021年の部門のテーマには「説明責任を果たす」ということを掲げています。

吉田
ありがとうございます。マーケティングとつながりが一番強いのでしょうか?

森田
調達はサプライチェーンの起点になるので、マーケティングだけではなく、経理やその他部門とも定期的にレビューを行っています。

マーケティングとは、商品のPL(損益計算書)を作る上で、原価はかなりの部分を占めますので重要ですし、お菓子の業界は商品の入れ替えなど変化が非常に激しいので、仕様変更も頻繁にあります。

お菓子、冷菓、加工食品など幅広いビジネスを展開していますが、原料にしても包材しても構成が複雑で、原料が一個でも欠けると製品ができなくなってしまうので、調達としてはかなり高度ではあることは間違いないですね。

その上で、リスク管理を含めて、ロジックをもってやらないといけない、感覚や経験だけでやっていけるものではないなと思っています。

吉田
ありがとうございました。既に資格を取得された後の目標、夢などを教えていただけますでしょうか?

森田
私は、仕事を通じて世のため人のためになるように、江崎グリコのビジネスが持続的成長を遂げていくためには、何より人が大切だと思っています。

秋山のような優秀な後輩を育てること、これが私に残されたサラリーマン人生の一番の宿題だと思っています。

吉田
ありがとうございます。秋山さん、いかがでしょうか?

秋山
今は学んだことを実践、応用しながら効果が出ているという段階ですが、この次は、本当に「夢」に近くなってしまうのですが、CPPの教科書になるような手法を自分で考えていきたいと思っています。

新しいアプローチはないかということを常に考えながら、調達の世界スタンダードになるような手法を自ら開発したいな、と思っています。

吉田
ありがとうございます。

吉田
最後に、これからCPPを取り組もうとしている方、検討している方に一言いただけますでしょうか?

森田
はい。CPPで書かれている理論はグローバルで通用します。

どこの国の調達専門家との会話でも共通言語で、かつ共通のセオリーでもあります。

これからも、日本の企業にとって、グローバル化は避けられない共通の課題だと思いますが、その中で調達業務はバリューチェーン上不可欠な業務です。

この体系付けられた、共通のセオリーやロジックを身につけられることは調達機能向上には必要不可欠だと思います。

日本の企業だけでなくグループ、子会社、海外子会社も含めて、共通にできることだと思いますので、CPPをお取り組みされることに損は無いといます。

吉田
ありがとうございます。秋山さんいかがでしょうか。

秋山
はい。調達業務ではマニュアルがない、マニュアル化しにくいと思いますが、何を拠り所にしていいかわからない業務だったり、何となく慣例的に行っている業務にメスを刺したり、標準化できるというのが、CPPを学んだ後に期待できることだと思っています。

自分のスキルアップ、仕事の効率化、自分の市場価値も向上するということも期待できます。是非、モチベーション高く取り組んでいただければ、と思います。

吉田
本日はお忙しいところありがとうございました。

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